フォーチュンクッキー
 オレの疑問を解くように、チビ助は続けた。

「お母さん──凛子さんは心の病気なんです。今はあたしのことわからなくて……。
でも、最近はすこし落ち着いて、あたしの名前を呼んでくれるんですよ!」


 背を向けたままで表情は見れなかったけど、声は明るかった。

でも、ずっと寂しかったに違いない。


 オレがみてきたチビ助は、どこかで自分を押し殺すような、そんな感じがしていた。


 親に名前を呼ばれるなんて普通だろ?

なんていったら、チビ助を否定することになるんだ。


 ────『未来』。

名前を呼んだらあんなに喜ぶのは、このせいでもあるんだろうか。



「……いつから、凛子さんは入院してるんだ?」

「えーと、ちょうど三年くらい前かなぁ?」


 包丁の音が止むと、小首をかしげるように呟く。


 ちょうど切り終えたのか、ぐつぐつと沸騰を始めた鍋に小麦色のパスタと切られたアスパラが投入された。


「あ、塩入れなきゃ」

 チビ助は背伸びして白い粉が詰まった小さな容器を手にした。



 オレは、なんてバカだったんだろう。

うまくいかない恋にグダグダしてるとき、チビ助は必死に毎日を生きていた。


 それは今も変わらないのかもしれない。

チビ助は、ただ現実に追い付くのに精一杯で、反抗期なんてあったのかさえ疑問なくらい。


 急に自分が恥ずかしくなる。

いかに己のことだけを考えて過ごしてきたのか、思い知らされる。



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