最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
第二章 エメラルドグリーンの瞳
1
王宮近衛騎士団の朝は早い。翌早朝、ナーディアが調練に出かける準備をしていると、ノックの音がした。
「悪い、こんな早くに」
ドアを開けると、垂れ目が印象的な赤毛の青年が立っていた。士官学校時代からの親友である、マリーノだ。ナーディアより二歳年上だが、ナーディアが二年飛び級したため、卒業も騎士団への入団も同じ年だった。今は、この王宮近衛騎士団で共に働く同僚である。
「……あ。支度、まだだったのか」
寝間着にガウンを羽織っただけのナーディアを見て、マリーノはパッと視線を逸らした。
「いいよ。お前がこんな時間にやって来るって、よっぽどだろ?」
騎士団仲間の前で、ナーディアは基本男言葉である。周囲につられる、ということもあるが、舐められないようにという意識も働いている。
「じゃあ、言うけれど。実は、ニュースがあってな」
誤解されないためだろう。マリーノは室内には入ろうとせずに、その場で話し始めた。
「新人が入ったんだ。お前がオルランド殿下に付いて、王都を留守にしている間に」
「こんな時期にか?」
ナーディアは、目を丸くした。王宮近衛騎士団の採用は、年一回だ。今年の採用は、もう終わったというのに……。
「そう。名前は、ロレンツォ・ディ・フェリーニ。フェリーニ侯爵のご次男だそうだ。今年二十二歳で……」
「おいおい、待てよ」
ナーディアは、マリーノの言葉をさえぎった。
「フェリーニ侯爵家には、ご子息はお一人だけじゃなかったか?」
「それが」
マリーノは、声を落とした。
「実は侯爵には、長年囲っている愛人がいたんだよ。辺境を訪問された時に見初めたそうで、夫人には内緒で男の子を産ませたらしい」
「本当かよ」
思わず眉をひそめたのは、女性としての本能からだ。フェリーニ侯爵といえば、真面目な愛妻家で有名だったのに。そんな真似をしていたなんて、見損なった。
「男って、これだからなあ」
吐き捨てるように言えば、マリーノはなぜか慌てた素振りを見せた。
「べ、別に全ての男がそうってわけじゃないぞ!? 俺は、浮気なんてしないからな。結婚したら、妻一筋だ!」
マリーノは、コンテという中堅どころの伯爵家の三男なのである。そろそろ、相応の家柄の娘と結婚するのだろうと思われた。
「悪い、こんな早くに」
ドアを開けると、垂れ目が印象的な赤毛の青年が立っていた。士官学校時代からの親友である、マリーノだ。ナーディアより二歳年上だが、ナーディアが二年飛び級したため、卒業も騎士団への入団も同じ年だった。今は、この王宮近衛騎士団で共に働く同僚である。
「……あ。支度、まだだったのか」
寝間着にガウンを羽織っただけのナーディアを見て、マリーノはパッと視線を逸らした。
「いいよ。お前がこんな時間にやって来るって、よっぽどだろ?」
騎士団仲間の前で、ナーディアは基本男言葉である。周囲につられる、ということもあるが、舐められないようにという意識も働いている。
「じゃあ、言うけれど。実は、ニュースがあってな」
誤解されないためだろう。マリーノは室内には入ろうとせずに、その場で話し始めた。
「新人が入ったんだ。お前がオルランド殿下に付いて、王都を留守にしている間に」
「こんな時期にか?」
ナーディアは、目を丸くした。王宮近衛騎士団の採用は、年一回だ。今年の採用は、もう終わったというのに……。
「そう。名前は、ロレンツォ・ディ・フェリーニ。フェリーニ侯爵のご次男だそうだ。今年二十二歳で……」
「おいおい、待てよ」
ナーディアは、マリーノの言葉をさえぎった。
「フェリーニ侯爵家には、ご子息はお一人だけじゃなかったか?」
「それが」
マリーノは、声を落とした。
「実は侯爵には、長年囲っている愛人がいたんだよ。辺境を訪問された時に見初めたそうで、夫人には内緒で男の子を産ませたらしい」
「本当かよ」
思わず眉をひそめたのは、女性としての本能からだ。フェリーニ侯爵といえば、真面目な愛妻家で有名だったのに。そんな真似をしていたなんて、見損なった。
「男って、これだからなあ」
吐き捨てるように言えば、マリーノはなぜか慌てた素振りを見せた。
「べ、別に全ての男がそうってわけじゃないぞ!? 俺は、浮気なんてしないからな。結婚したら、妻一筋だ!」
マリーノは、コンテという中堅どころの伯爵家の三男なのである。そろそろ、相応の家柄の娘と結婚するのだろうと思われた。