最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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(ジャンニ。今どこにいる……?)





 オルランドが彼を捜そうかと言った時、正直ナーディアの心は微かに揺れた。だが、それは許されないことだ。ジャンニは、国王陛下に反逆した、謀反人の一族なのだ。近衛騎士団の一員として、王室への忠誠を誓ったナーディアが、関わっていい相手ではない。





 ナーディアは、再び十四年前のことを思い出していた。大会後、ジャンニとまた戦いたいと言ったナーディアを、父ロベルトはこっぴどく叱ったのだ。





『あの一族のことは、二度と口にするな!』





 あの時の父の険しい形相は、今でも忘れない。ナーディアがコルラードのふりをして大会に潜り込んだと知った時の何倍も、彼は怒っていた。もっとも、それは当然だろう。ロベルトは王立騎士団長として、チェーザレ一派を鎮圧する立場にあったのだ。





 以来ナーディアは、ジャンニの名を封印した。何年経ってもモンテッラ家では、クーデターやそれに加わったメンバーのことを、口に出せないムードがあった。それは、避けるべき忌まわしい話題だった。





(……でも。奇跡が起きて、いつかまた、手合わせできないだろうか……)





 叶わぬ夢と知りつつも、ナーディアは願わずにはいられなかった。あれ以来ナーディアは、今まで以上に武芸の稽古に励んだのだ。そして念願の士官学校に入り、王立騎士団へ入団し、ついにはラクサンド最強騎士という称号まで手に入れた。





 それでもナーディアは、そう呼ばれることに抵抗を覚えた。自分は、決して最強などではない。それがわかっていたからだ。





(そう、私は彼と手合わせしたいだけ。それだけだ……)





 オルランドが、妙なことを言うから。この感傷は、負けた悔しさなのだ。そう言い聞かせて、ナーディアは押し花をそっとしまった。だが脳裏には、ジャンニのあのエメラルドグリーンの瞳が、いつまでも焼き付いていた。
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