最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

2

「ま、それはどうでもいいや。……で、その隠し子が入団したと?」



「どうでもいいのか……?」





 なぜかマリーノは、がくっと肩を落とした。目尻はいっそう垂れ、情けなく見えるほどだ。





「何だよ?」



「……いや、その通りだ。フェリーニ侯爵は、愛人とその子……ロレンツォを、ずっと辺境に住まわせていた。だが、夫人も愛人も亡くなったのを機に、ロレンツォを王都へ呼び寄せたんだ」



「どうしてまた、そんなややこしいことを?」





 れっきとしたご長男がいらっしゃるというのに、それでは紛争の種を作るようなものではないか。ナーディアは、首をひねった。





「ロレンツォは、辺境の騎士団に所属していたんだが、群を抜いた活躍ぶりだったそうなんだ。フェリーニ侯爵としては、このまま田舎に埋もれさせるのは惜しいと考えられたようで。それで、試しに王立騎士団の入団試験を受けさせたところ、学科、実技ともに抜群の成績だった」





「それで、入団が決まったと?」



「ああ。それも、王宮近衛騎士団に、とのことだ」





 マリーノが、不満げに口を尖らせる。ナーディアには、彼の気持ちがよくわかった。王立騎士団に入るには、入団試験に合格しなければいけないのだが、その受験資格を得るには、王都の士官学校を一定以上の成績で卒業する必要がある。さらに、王立騎士団においてたぐいまれな実績を上げてはじめて、王宮近衛騎士団のメンバーに選ばれる可能性が出てくるのだ。それらのプロセスを全てすっ飛ばしたなんて、納得できるわけがない。





(――縁故採用だろ、どうせ)





 現王立騎士団長のザウリは、フェリーニ侯爵の甥に当たるのだ。ナーディアは、フンと鼻を鳴らした。





「ま、すぐに音を上げるだろ。辺境の騎士団と、この王宮近衛騎士団では、レベルが違いすぎる。あっという間に、故郷へ逃げ帰るに決まってるさ」



「……いや、それが」





 マリーノは、なぜか口ごもった。





「奴に実力があるのは、確かだ。王宮近衛騎士団への入団に当たり、ロレンツォは俺たち全員と、剣の手合わせをしたんだ。……結果」





 マリーノは、さらに小声になった。





「誰一人、奴に敵わなかった」



「何だとう!」





 早朝だというのも忘れ、ナーディアは大声を上げていた。





「お前ら、そろいもそろって何なんだ、その腰抜けっぷりは! しかもマリーノ、お前まで負けたのか!?」





 マリーノは、誰もが認める王宮近衛騎士団のナンバー2だ。特に剣術では、ナーディアに極めて近い実力を持つ。ジャンニの思い出話をした時、オルランドが真っ先にマリーノかと尋ねたのは、それゆえである。
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