最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

21

 そのまま立ち去るかと思いきや、ロレンツォは、今までダリオが腰かけていた場所に、どかりと座り込んだ。ナーディアは、思い切って尋ねてみた。





「ロレンツォ、あのさ。このネックレスをくれたのって、ダリオの企みに気付いたからか?」



「ああ」





 ロレンツォは、あっさり答えた。





「最初は、お前が自分の意志で、兄上のカラーを身に着けているのかと思った。でも、もしかしたら違うかもしれないと気付いたんだ。お前は、ファッションにも男女の駆け引きにも疎そうだ。それにつけ込んで、兄上が上手に騙しているのじゃないかと……。さすがにドレスを仕立て直すのは間に合わないから、せめて装飾品だけでもと思ってな。ちなみに占星術うんぬんは、デタラメだ」





「それだけのために、こんな高価な物を?」





 ナーディアは、目を丸くした。





「お前って、優しいというか、太っ腹というか……」



「別に、そのためだけじゃない」





 ロレンツォが、ぼそりと答える。





「他に何が?」



「ああ、いや……。だから、ベルトの礼だ」





 早口でそう答えると、ロレンツォはナーディアの顔をじっと見つめた。





「すまなかったな。もっと早く、兄上を止められたらよかったんだが……。いや、実は、止めてよいものか迷っていたんだ。ナーディアも兄上を好きなのかと、疑っていたから。それなら、邪魔をすべきではないか、とも……」





「それはない。ダリオは単なる、幼なじみの友達だった」





 ナーディアは、きっぱりとかぶりを振った。





「なぜそう思ったんだ?」



「そりゃ……。お前って、兄上の前でだけは、女言葉になるじゃないか。てっきり、そう思うだろう」





 そういえば、ロレンツォは前にもそう言いかけていた、とナーディアは思い出した。





「違うよ。私も、小さい頃は女言葉だったから。ダリオは幼なじみだから、あいつと話していると、その頃の感覚に戻るだけだ」



「……何だ」





 ロレンツォは、顔を覆って深いため息をついた。
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