最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

22

「どうしたよ?」





 不審に思って尋ねると、ロレンツォはようやく顔から手を離した。





「いや。お互い、暴走する兄には苦労するな、と思っただけだ」



「……ああ」





 コルラードの所業を思い出したナーディアは、苦笑した。





「その暴走を止めてくれて、ありがとうな、ロレンツォ」





「止まった、とは言えないと思うが。求婚に伺う、と仰っていたじゃないか」





「そりゃあ、そうだけれど……。でも、さっきの言葉は、嬉しかった。騎士としての私を、認めるって言ってくれたこと」





 そこでナーディアは、心が陰るのを感じた。敏感に察知したらしく、ロレンツォが顔をのぞき込む。





「どうした?」



「騎士団の皆に誤解されたのが、悲しくて。マリーノは、私が侯爵夫人のステイタスに飛び付いて、騎士を辞めると思い込んでる。きっと、他の皆も……」





 恋愛も女であることも犠牲にして、ここまで頑張って来たのに。ダリオのせいで、これまでの努力を粉々にされた気分だ。唇を噛んでいると、ロレンツォがこんなことを言い出した。





「大丈夫だ。俺が、皆の誤解を解いてやる」



「本当か!?」



 



 ナーディアは、弾かれたように顔を上げた。





「これは兄の策略によるものだと、騎士団の皆に説明するよ。弟の俺が言えば、信じてくれるだろう。心配するな。ナーディアの名誉は、守ってやる」



「ロレンツォ……」





 ナーディアは、何だか目頭が熱くなった。





「ありがとう、本当に。ロレンツォは、私が困っている時に、いつも助けてくれるよな」





 目を見て告げれば、ロレンツォは一瞬息を呑んだ。夜の暗がりではあるが、ナーディアの目には、彼が少し赤くなったように見えた。





「そうでもないぞ。この前は、ヘマをして、一緒に閉じ込められる羽目になったじゃないか」





 クスリと笑うと、ロレンツォは立ち上がった。





「パーティーはまだまだ続くが、お前はもう帰った方がいいんじゃないか。今のは、あくまで応急の処置だ。早く実家に帰って、医者を呼んでもらえ」



「でも……」





 ナーディアはためらったが、ロレンツォは帰るよう主張した。





「どっちみちその足じゃ、立っているのも辛いだろう。フローラ嬢や俺の父には、俺から言っておく」



「わかった……」





 ナーディアは、あの忌々しい靴に、再び足を通そうとした。だが、入らない。ロレンツォが巻いてくれた布で、足が膨れたせいだ。





 困り果てていたその時、とんでもないことが起きた。ロレンツォが、ナーディアの膝の裏に腕を差し込んだのだ。もう片方の腕で上半身を抱き込み、ナーディアを体ごと抱え上げる。





「馬車の所まで、連れて行ってやる」





 ロレンツォは、こともなげに言った。
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