最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

23

「ちょっ……、止めろ! 下ろせよ」





 ナーディアは仰天したが、ロレンツォは平然としていた。





「暴れると、落っこちるぞ……。ほら、しっかりつかまって」



「こんなこと、してもらわなくても! 一人で……」



「歩けるのか?」





 ナーディアは、ぐっと詰まった。





「裸足で会場には戻れないだろう。ここがテラスでよかったな。馬車の所まで連れて行くから、そのままモンテッラの家に帰るといい」





 ナーディアは諦めて、ロレンツォの首に腕を回した。女性にしては遙かに筋肉量が多いナーディアだが、ロレンツォは苦もない様子で、スタスタと歩き出す。密着しているせいで、彼の胸や腕の筋肉が、リアルに感じられた。その感触には、覚えがあった。二人で閉じ込められた時のことだ。やはりあの夜は、ずっとこの腕に抱かれていたのだろう。





「兄上のカラーだと思うと、腹立たしいが……」





 ロレンツォは、ふとナーディアの顔を見た。





「そのドレスは、とても似合っている」



「……ありがとう」





 何だか目を合わせられず、ナーディアは視線を逸らした。今日初めて、これを着て来てよかった、と思う。だがロレンツォは、けろりとこう続けた。





「前回は、その中身しか見られなかったからな。外側も見られてありがたい」



「お前っ……」





 シュミーズ姿のことを言われているのだとわかり、ナーディアは真っ赤になった。





「そんなことをほざくなら、下ろせ!」



「でも」





 ナーディアの言葉を無視して、ロレンツォは続けた。





「いつもの王宮近衛騎士団の制服姿も、好きだ。ドレスのお前も、騎士であるお前も、両方好きだ」





 ナーディアを抱くロレンツォの腕の力が、その瞬間強くなった気がした。ナーディアは、思わず彼の顔を見つめていた。





「ロレンツォ……」





 この男を好きにならずにいられるわけがない、とナーディアは思った。絶対に、恋してはいけない相手なのに。
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