最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
第九章 疑惑の芽

1

 その後ロレンツォは、実に上手く立ち働いた。彼は王宮近衛騎士団の皆に、こう説明した。





『ダリオとナーディアの間に、婚約話は一切持ち上がっていない。もちろん、ナーディアが騎士団を辞めることもない』





『王妃との約束を盾に、求婚を断られることを予想したダリオが、焦って強引な手段に出ただけ』





『ドレスは、モンテッラ家の揉め事をダリオが解決した見返りとして着せられたもので、ナーディアの本意ではない。フェリーニ邸へ通っていたのは、その仕立てのため』





 それでいてコルラードの不祥事については伏せてくれたロレンツォに、ナーディアは深く感謝した。パーティーで、フェリーニ侯爵やロベルトが二人について何も言及しなかったこともあり、一同はロレンツォの話を信じた。そしてザウリは、顛末を聞いて、ダリオにひどく怒った。





「うちの従弟は、馬鹿な真似をしたもんだな。騎士の足を傷つけるなど、考えられん。王宮近衛騎士団を、何だと心得ているんだ」





 ぶつぶつ言いながらも、ザウリは、ナーディアがしばらく調練を休むことを許可してくれた。そしてマリーノは、真っ先に謝罪にやって来た。





「悪かった! ひどいことを言って」





 マリーノは、平伏せんばかりの態度だった。





「ショックで、頭に血が上ったんだよ……。お前が、侯爵夫人の地位に目がくらむような女じゃないことくらい、知ってたはずなのに。誇りを持って騎士の道を突き進んでいることは、よくわかっている……」





「もういいって。その言葉だけで十分」





 いつまでもすまなさそうな顔をしているマリーノを見ていると、何だかこちらが申し訳なくなってきた。





「マリーノが謝ることじゃないよ。悪いのは、ダリオだ。それに、私も愚かだった。ドレスのデザインを、仕立屋に丸投げして……。しかしあの色は、ダリオの目の色だったんだな! 全然、気付かなかったよ」





 それを聞いたマリーノは、何だか複雑そうな表情をした。





「お前な……。恋敵に同情するのも変な話だけど、目の色も忘れられてるダリオ様が、気の毒になってきたぜ」





 ひとつため息をつくと、彼はこんなことを言い出した。





「とはいえ、俺も暴言の詫びがしたい。何でも言ってくれ。復帰後の調練で、ボコボコにしてくれもいいし」



「それ、言われなくてもいつもやってるだろ?」



「……そうだったな」





 マリーノは、不承不承認めた。





「じゃあ、プレゼントをさせてくれ。何か欲しい物はないのか? 服系……はうんざりだろうから、武具? 本?」





「気を遣わなくていいって」





 ナーディアは固辞したが、マリーノはどうしてもと言い張った。





「うーん……。なら、居酒屋で酒を一杯奢ってくれ。それでチャラだ」





 にこりと微笑みかければ、マリーノもつられたように笑った。





「お前って……。俺、やっぱりお前のそういうとこ、好きだわ」





 彼はしみじみと呟いたのだった。
< 106 / 200 >

この作品をシェア

pagetop