最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

2

 一週間後。ナーディアは、父ロベルトから呼び出された。用件は予想通り、フェリーニ家から正式に結婚の申し込みを受けた、というものだった。





「私としては、気が進まない縁談だ」





 モンテッラ家のロベルトの書斎で向き合うと、彼はナーディアにハッキリと告げた。





「フローラの婚約披露パーティーで、お前とダリオ殿の姿を見た時は、二人の間には約束が取り交わされているのかと思った。お前が、ダリオ殿のカラーを身に着けていたからだ。だがそれは、お前の同意を得ていなかったとわかった。……ロレンツォ殿が、教えてくれたのだ」





 ロレンツォはロベルトにも伝えたのか、とナーディアは驚いた。





「おまけに、私やお前のあずかり知らぬところで、勝手にザウリ殿に働きかけたとか。褒められた行動ではないな」





 不愉快そうに言った後、ロベルトは意外な台詞を続けた。





「だが。私が気が進まないのは、それが原因ではない。最大の理由は……、ダリオ殿が長男だからだ」





「私に、フェリーニ家の奥方は務まらないと?」





「そうではない」





 ロベルトは、静かにかぶりを振った。





「ナーディア、よく聞きなさい。この度私は、断腸の思いでコルラードを勘当した。そしてロレンツォ殿を婿に迎えたわけだが、実は、まだ彼に爵位を継がせると確定したわけではない。マクシミリアーノとの約束は、あくまで暫定だ」





「そうなのですか?」





 ナーディアは、目を見張った。





「当然だろう。確かにロレンツォ殿は優秀だが、まだ知り合って日が浅い。そんな人間に、簡単に全てを譲れると思うかね。……そこで」





 ロベルトは、じっとナーディアを見つめた。





「ナーディア。私はお前にも、婿を迎えることを望む。ロレンツォ殿と比べて、その男の方がふさわしいと判断した場合、彼をモンテッラ家の後継者とすることもあり得る。従って、長男であるダリオ殿ではダメなのだ」





「私が、婿を……?」





 ナーディアは驚愕した。結婚自体、するつもりがなかったというのに、いきなり婿を取れだなんて。さらにロベルトは、衝撃の言葉を発した。





「実は、時を同じくして、コンテ伯爵家からも申し込みがあった。……わかるな? お前の同僚の、マリーノ殿だ。三男である彼は、婿入りしてもよいと匂わせている。私としては、是非彼との結婚を望む」
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