最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

3

(マリーノが……?)





 ナーディアは、マリーノに告白された時のことを思い出していた。確かに彼は、こう言っていた。





 ――入れと言われりゃ婿に入ることだって……。





 あの時は、まさかコルラードが勘当されるとは予想していなかっただろうから、結婚への意欲を表しただけだろうが。まさか、現実になるとは。





「あの……、ですね、お父様」





 混乱しながらも、ナーディアはどうにか言葉をつむいだ。





「ダリオとの結婚は、まずあり得ません。彼は、私の騎士としてのキャリアを否定し、退団するよう求めていますから。ですが、マリーノとの結婚も、現実味が湧かないと申しますか……」





「ならば、マリーノ殿以外でもよい。婿に入ってくれる男であればよいのだ」





 ロベルトはあっさりと告げるが、ナーディアは戸惑った。





「しかし、お父様……。王妃殿下とのお約束は、ご存じでしょう。それを、反故にせよと仰るのですか?」





 誰よりも王室への忠誠心を持つ父が、軽々しくそんなことを言うとは思えなかった。目を見すえて問いかければ、ロベルトは辛そうな表情を浮かべた。





「ナーディア。もちろん、承知している。そして、王妃殿下のお言葉に背くなどということは、あり得ない。王族のご命令は、絶対だ。王立騎士団長を辞めた後も、私は生涯、このラクサンド王室への忠誠をお誓い申し上げている」





「では……」





「そうだ。お前には、オルランド殿下の護衛を辞めてもらうしかない」





「お父様!」





 ナーディアは、思わず父に取りすがっていた。すまん、とロベルトが頭を下げる。





「私だって、お前が殿下の護衛に選ばれた時は、どれほど誇らしかったか。恨むなら、コルラードを恨め……」





「私は、嫌でございます! 結婚も、婿取りも、オルランド殿下の護衛を辞めることも……。後継者は、ロレンツォでよいではありませんか。私は、彼は信頼に値する人間だと信じています……」





「ナーディア!」





 ロベルトの厳しい声が飛ぶ。ナーディアは、反射的に縮み上がっていた。こんな風に激しく怒鳴りつけられるのは、子供の頃以来だった。





「お前は、まだ世間知らずだ……。人の本性など、そう簡単にわかるものではない。長年付き合ってきた友人でも、その正体を見抜けない場合もある……」





 ナーディアは、ハッとした。フェリーニ侯爵のことを言っているのだろうか。





(やはり、十四年前に何かがあった……?)





 ナーディアは、思い切って尋ねた。





「お父様。それは、フェリーニ侯爵のことを仰っているのですか。そしてそれには、エメリアという女性が関係しているのではないですか」
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