最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「いえ、そのような……。あの、ロレンツォはその理由について何と?」





「王宮近衛騎士団への入団は、正規の手続を踏んだわけではない。それが原因で、他の団員と馴染めていないように思うから、彼らとの距離を縮めるためにも寮住まいを続けたい、と。でも、何だかこじつけのような気がするわ」





 確かに、最初は不満の声も上がったが、今やロレンツォは、すっかり皆と打ち解けている。彼の説明には違和感しか覚えなかった。





 フローラは、しばらく浮かない表情で黙り込んでいたが、唐突にこう言い出した。





「ナーディア、私ね……。本当にロレンツォ様に愛されているのかしら、と疑問に思うわ」



「何を仰います!」





 ナーディアは、眉をひそめた。





「入団当初から、ロレンツォは姉様のことばかり言い続けていましたよ。姉様だって、散々のろけてらしたではないですか」





 ロレンツォからの手紙やプレゼントについて、あれほど嬉しげに語っていたというのに。フローラの不安は杞憂にしか感じられなかったが、彼女はかぶりを振った。





「以前はね。いえ、今もロレンツォ様は、とてもお優しいのだけれど……。何だか最近、少し素っ気なくなられた気がするの。思い返せば、コルラード兄様が勘当されて、ロレンツォ様のお婿入りが決まった後からのように思うわ」





 フローラは、ナーディアをじっと見つめた。





「もしやとは思うけれど、ロレンツォ様は、この家の跡取りになることが目的だったのではないかしら?」





 ドキリとした。ダリオが、全く同じことを言っていたのを思い出したからだ。だが、フローラの不安を増幅させてはいけない。ナーディアは、あえて冗談めかして答えた。





「まさか。お父様には申し訳ないけれど、モンテッラは、わざわざ跡を継ぎたいような名家ではありませんよ。姉様は、結婚を控えて少しナーバスになっておられるのでは?」





「そうかしら」





 フローラは、低く呟いた。





「こんなことを口にするのははしたないのだけれど……。婚約が決まって、もう三ヶ月になるのに、ロレンツォ様は、私に口づけの一つもしてくださらないわ。そういう雰囲気になるのを、避けておられるようにすら見えてきて……」





「それはきっと、姉様を大切にされているからで……」





「もう結構よ」





 フローラは、激しい口調でナーディアの言葉を遮った。





「考えてみれば、ナーディアにこの手の相談をしても無駄だったわね」





 ナーディアは絶句した。女を捨て、恋愛には無縁の人生を送る妹のことを、フローラはこれまで一度も馬鹿にしたことはなかった。それどころか、恋をしてはどうかと、気を揉んでいたくらいなのに。





 初めて、姉の知らない一面を見た気がした。
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