最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

7

 翌朝、ナーディアは、出勤するなりオルランドに言われた。





「お前は、『ラクサンドのネモフィラ』の後継者となりそうな勢いだな」



「何を、いきなり……」



「聞いたぞ? 二人の男に、一度に求婚されたって」





 オルランドは地獄耳だった、とナーディアは思い出した。





「しかも、どちらも負けず劣らず、いい男ときた。かたや、由緒ある名門侯爵家の次期当主。かたや、我がラクサンドの誇る王宮近衛騎士団のナンバー3! 羨ましいですわ~、と世のご令嬢方が地団駄を踏みそうな展開じゃねえか」





 露骨な裏声にツッコミを入れる気にもならないのは、悩みすぎて神経がすり減っているからに違いなかった。





「が、それは世間の見方だ。好きでもない男に何人言い寄られようが、迷惑なだけだよな」





 オルランドが、静かに続ける。ナーディアはハッとした。





「しかも、二人とも昔からの付き合いだ。お前のことだから、断った後の関係のことも考えて、悩んでるんだろう」





「まあ、そうですね」





 ナーディアは、オルランドの鋭さに舌を巻いた。同僚であるマリーノは言うに及ばず、ダリオとも、今後は姻戚関係が発生する。できることなら、関係は悪くしたくなかった。





「でも、嫌なもんは嫌なんだろ? だったら、ウダウダ悩まずに断れよ」





「それは、殿下のお立場だから言えることですよ。父の命令は絶対です。ですがその場合、私は殿下の護衛を辞めねばなりません」





 オルランドが、大きく頷く。





「なるほど。俺の傍を離れたくないから、悩んでるんだな」



「……その仰りようはやや語弊がありますが、護衛は続けさせていただきたいというのが、私の希望です」





 ふむ、とオルランドは思案顔になった。





「俺自身は、昔の口約束なんてどうでもいいと考えているが、皆がそう思うわけではないからな。王立騎士団員の中には、女のお前が俺の護衛を務めていることを、未だに不満に思う者もいる。ここでお前が結婚したら、それを盾に取って、ここぞとばかりに辞めろと言い出す可能性は大きい。そいつらを黙らせるには、国王陛下から結婚の許可を出していただくしかない」





「そんな、そこまでしていただかなくても……」





 ナーディアは恐縮したが、オルランドは大真面目だった。





「いや、ナーディアのためならそれくらいしてやるぞ? ただ、それはそれで問題がある。俺がお前のために父上に働きかけた、となれば、今度は変な邪推をする奴が出て来るかもしれん。そこは、慎重に動かんといかんな……」





 オルランドはしばし考えを巡らせていたが、やがてナーディアを見て微笑んだ。





「ま、取りあえずお前には、気分転換が必要だ。酒を奢ってやるから、付き合え。そろそろ、例の『視察』に行きたいと思っていたんだ。どうだ、今夜は空いているか?」
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