最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「……ですが、『視察』ですと、私は飲めないじゃないですか。奢ると仰られても……」





 オルランドは、平民の生活を『視察』すると称して、度々お忍びで町の居酒屋へ出かけるのだ。オルランドは気前よく食事を奢ってくれるので、付き合わされるナーディアも、それなりに楽しんでいた。とはいえ、護衛役として同行する以上、いつも酒は我慢せざるを得なかったのである。





「それに今夜は、あいにく先約がございます……。マリーノとですが」



「デートか?」





 オルランドが、にやりとする。





「違います。ちょっとした喧嘩をしたので、お詫びに奢ってくれると」





 結婚話はさておき、取りあえずは先日の暴言の詫びをしたいと、マリーノは言い張ったのだ。





「ふむ……。なら、ちょうどいいな」





 名案が浮かんだとばかりに、オルランドが大きく頷く。





「三人で行くか。俺の護衛役はマリーノにするから、お前は俺とマリーノの奢りで、存分に飲め。どうだ、悪くない案だろう?」





 ビールジョッキが並んだ光景が目に浮かび、ナーディアは思わず生唾を飲んだ。それを見たオルランドは、満足そうに「決まりだな」と言ったのだった。









 その夜、ナーディアとマリーノは、片目を眼帯で覆い、労働者風に変装したオルランドと共に、町の居酒屋を訪れていた。マリーノが、ぶつぶつと呟く。





「何で、殿下も一緒なんだ……」



「殿下じゃなくて、ここではニコラと呼んで。ここの料理は美味いぞ? 全部『ニコラ』の奢りだしな」



「俺は、お前と二人がよかったんだよ! おまけに、俺だけ飲めないし!」





 なおもぼやくマリーノをどうにかなだめすかしながら、店に入る。いらっしゃい、と明るい声が上がった。出迎えた若い女店員を見て、オルランドが相好を崩す。





「ラウラ、久しぶり」





 先に行けと手で合図され、ナーディアとマリーノはテーブルに着いた。オルランドは、女店員と何やら話し込んでいる。給仕服のボタンがはじけ飛びそうなほどの巨大な胸を持つ彼女のことが、オルランドはお気に入りらしく、毎度こうしてちょっかいをかけるのだ。





(何を視察に来たんだか……)





 呆れながら眺めていると、マリーノが改まって話し始めた。





「ナーディア、その……。結婚の話だけれど」





 急に緊張が走るのを感じた。
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