最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

3

「……ええ」





 ナーディアは、一瞬ドキリとした。





「ロレンツォ様の故郷へ行けるなんて、羨ましいわ」



「まあ、仕事ですけどね」





 ナーディアは短く答えたが、フローラは憧れるような眼差しをした。





「それでも、私は訪れたことがないもの……。どんな所かしら? 寒さの厳しい山岳地帯なのよね? こう言っては何だけれど、暮らしにくそうだわ」



「そういえば、道が悪くて、石ころだらけだったそうですよ」





 いつかのロレンツォの話を思い出して、ナーディアはつい漏らした。するとフローラは、ふと黙り込んだ。





「ロレンツォ様は、ナーディアにはそんな話をなさるのね。私には、故郷の話なんて、ちっともしてくださったことがないわ」





 姉の眼差しは意外にも険しくて、ナーディアは動揺した。





「私に、というわけではありません。騎士団の皆で話していた時に、そんな話題になって」





 とっさに出た嘘だった。姉に嘘をつくのは、ネックレスに続いて二度目だな、とナーディアは思った。性格は正反対だけれど、幼い頃から仲の良い姉妹だった。互いに隠し事なんて、これまでしたことがなかったのに。そして二つの嘘は、どちらもロレンツォ絡みだ。





「そう。王宮近衛騎士団の皆様は、仲が良いのね」





 幸いにもフローラは、納得したように頷くと、懐から何かを取り出した。





「これ、よかったら持ってらっしゃい。旅のお守りよ」





 フローラは、可愛らしい小さな丸い容器をナーディアに手渡した。手製らしく、リボンが付いている。中からは、ハーブのような良い香りがした。





「これ、姉様が?」



「ええ。肌身離さず身に着けるといいそうよ。首にかけたら、ちょうどいいのじゃないかしら」



「わざわざ、ありがとうございます」





 手先の器用なフローラらしい。だがナーディアは、一瞬不思議に思った。オルランドに随行して王都を留守にすることは、これまで何度となくあったが、このようなお守りをもらうのは初めてだからだ。とはいえナーディアは、丁重に礼を述べて、それを受け取ったのだった。
< 121 / 200 >

この作品をシェア

pagetop