最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

8

 コドレラへ来て三日目、ナーディアとロレンツォは、オルランドから半日の休みを与えられた。とはいえ、特に何をする予定もない。ナーディアは、宿の自室でぼんやりと過ごしていた。





 セルジオらは、ずっとオルランド一行に随行し続けている。過去の事情は承知したものの、やはり彼の言動には不快の念を禁じ得なかった。さらにナーディアを苛つかせたのが、運動不足だった。婚約披露パーティーで足にマメをこしらえて以来、ナーディアは調練を休んでいた。ようやく復帰できると思った矢先に、このコドレラ訪問である。思いきり剣を振り回したくて、ナーディアはウズウズしていた。





(格好の練習相手が、一緒に来てるってのにな……)





 どうせロレンツォは、理由を付けて手合わせを断るに違いない。一人で膨れっ面をしていると、ノックの音がした。当のロレンツォだった。





「何だか、ご機嫌斜めだな」





 ロレンツォは、ナーディアを見るなり言った。





「体がなまりすぎて、限界だ。手合わせする相手も見つからないからな」





 皮肉を込めて、ナーディアは答えた。





「どうせなら、マリーノにも来て欲しかった」



「彼が一緒の方がよかったか?」





 ロレンツォが、微かに眉間に皺を寄せる。





「あいつなら、いくらでも手合わせに付き合ってくれるからな」



「まさか、そんな理由で結婚するわけじゃなかろうな」



「あー……。それな……」





 先送りにしていた問題を思い出して、ナーディアは頭を垂れた。ロレンツォが、返答を促す。





「王都へ戻ったら、マリーノと結婚するのか? 本当に?」



「したくはないけれどな。いや、あいつが嫌というわけじゃなくて、誰とも結婚はしたくない。でも、父の命令なら従わざるを得ないだろうな」





 ナーディアは、うつむいたまま深いため息をついた。





「結婚したら、オルランド殿下の護衛を辞めなければならないから。死に物狂いの努力をして得た、名誉あるポジションなんだ。絶対に失いたくない」





 ロレンツォは、黙って話を聞いていたが、不意にナーディアの頭をポンと叩いた。





「その話はさておき……。せっかく頂いた休みだ。気分転換をしないか? 案内したい場所がある」



「ロレンツォが、結婚の話を振ってきたんだろ!」





 言い返しながらも、ナーディアはすでに立ち上がっていた。ロレンツォは、どこへ連れて行ってくれるのか。期待で、胸がいっぱいだった。
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