最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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 その後たっぷり二時間、ナーディアはコドレラの騎士たち十名強を相手に、剣を戦わせた。ナーディアの肩書に緊張しながら挑む者、やはり女性ということで最初は手加減する者、様々だったが、いずれにしても最終的にナーディアに敵う者はいなかった。





「ありがとうございました! 良い経験になりました」





 一通りの手合わせが終わると、皆はナーディアに敬意を表明して去って行った。ナーディアの方も、いつもとは違うメンバー相手に戦えたことに、新鮮な満足を覚えていた。





「スッキリしたみたいだな」





 訓練場の片隅で汗を拭っていると、ロレンツォがやって来た。彼も、せがまれて途中から、昔の同僚らと剣を交えていたのだ。それなら私を相手にしてくれても、という思いもかすめたが、それは口にしなかった。そんなことはどうでもよくなるくらい、気分が高揚していたからだ。そしてそれは、ロレンツォのおかげだった。





 今日の手合わせで、ナーディアは単に運動不足が解消できただけでなく、コドレラの騎士たちに実力を認めさせることができた。今回の話は、いずれセルジオらにも伝わるだろう。恐らくロレンツォは、それを見越したに違いなかった。





「ありがとう」





 ナーディアは、ロレンツォの目を見て礼を述べた。





「それに……、安心した。お前、故郷に良い思い出がないって言っていたけど、同僚からは好かれてたんだな。それがわかって、嬉しかったよ」





 ロレンツォは、目を見張った。





「ナーディア、お前って……。本当に、人を思いやってばかりだな」





 しみじみと呟くと、彼はナーディアの髪に手を伸ばした。軽く整えてくれる。





「暴れまくったせいだな。それにしても、乱れすぎだ。あちこち、跳ねているし……。櫛は持っていないのか?」



「持っていない。持ち歩く習慣がないんだ」





 キッパリと答えれば、ロレンツォは呆れ返ったようだった。





「それでも女か? ……まあいい。それなら、これから案内する場所でヘアピンでも買え。どっちみち、連れて行く予定だったんだ」





「どこへ行くんだ?」





「ガラス細工の店だ」





 ロレンツォは、あっさり答えた。





「コドレラの伝統産業でな。アクセサリーもたくさん売っているから、女性に人気なんだ。せっかく来たのだから、好きな物を買うといい」
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