最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「い……、いいよ!」





 ナーディアは、反射的にかぶりを振っていた。なぜ、とロレンツォが首をかしげる。





「だって……。そんな可愛い物、私に似合うわけないもの。それより、姉様に買ってあげてくれ」





 ロレンツォは、深いため息をついた。





「そんな風に卑下するな。お前は、綺麗だよ。さっきの連中だって、言っていたろう?」



「あれは、フローラ姉様を知らないから、そう言ったので……」



「前から思っていたんだが」





 ロレンツォは、ナーディアの言葉を遮った。





「お前は、身だしなみやお洒落について、教わったことがないのか? 父親や兄はともかく、母親や姉は、何も言わなかったのか」





 ナーディアは、うつむいた。





「母は、私を嫌っていたから……。フローラ姉様のことは、張り切って着飾らせたけど、私には何もしてくれなかった。どうせ、似合わないと思っていたのだろう。……それに、もう亡くなった」





「お前の母上のことは存じないから、何とも言えんが……。姉は、どうなんだ。母親がいないなら、なおさら妹を気にかけるべきだろう」





 ロレンツォはフローラを、まるで赤の他人のように語った。婚約者とは、とても思えない。人が聞いていたら、ナーディアこそが婚約者だと勘違いしたことだろう。





「気にかけてくださったよ。あなたもお洒落したらいいのに、としょっちゅう……」





「口で言うのはたやすいな」





 ロレンツォの口調は、驚くほど冷たかった。





「お前の姉は、それを現実の行動に移したことはあるのか。俺は、それを聞いている」





 ナーディアは、ハッとした。確かにフローラは、口癖のようにそう言いつつも、具体的な指南をしてくれたことはなかった。姉と友人たちが、ファッションについて話している場に加わったこともあるが、とても付いて行けず、逃げ出したものだ。その際フローラは、フォローしてくれることもなかった。





「やはりか」





 ナーディアの表情を見て、ロレンツォは悟ったようだった。





「お前の姉は、お前に美しくなって欲しくないんだよ。化粧気もなく、男物の服を着ている今でさえ、ダリオ兄上もマリーノも、お前に夢中じゃないか。まして、着飾ったら、あちこちの男を虜にするのは目に見えている。彼女は、それが怖いのだろう」





「まさか……」





 にわかには、信じられなかった。『ラクサンドのネモフィラ』『国一番の美女』と誉れ高い姉が、ナーディアを競争相手として意識するなど……。するとロレンツォは、懐から何やら手紙を取り出した。





「ナーディア。さっきも言ったが、お前は人を思いやってばかりだ。その性格は、本来褒められるべきものだが、このままでは命取りになるかもしれんぞ……。これを読んでみろ」





 怪訝に思いながら、ナーディアは手渡された手紙を広げた。見慣れたフローラの字で、ロレンツォに宛てて、旅の無事を祈る文章が続いている。だが、ある一カ所で、ナーディアの視線は留まった。





『ロレンツォ様の旅の安全を祈念して、お守りを手作りしましたの。ナーディアの分と併せて、彼女に二人分託しました……』
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