最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

12

「二人分のお守り!? そんなこと、姉様からは聞いていない」





 ナーディアは、仰天した。





「確かにフローラ姉様は、お守りだと仰ってこれを私にくださったけれど。ロレンツォの分があるなど、一言も……。第一、もらってもいない」





 首から下げたお守りを指しながら、そこまで話して、ナーディアは思い出した。荷物から、もう一つお守りが出て来たことを。リボンの色だけが、違っていた。それを告げると、ロレンツォは、合点したように頷いた。





「あれが、ロレンツォの分だったのだろうか? でも姉様は、何も仰らなかったぞ。忘れたのだろうか……」





 そんなはずはないな、とナーディアは思った。誰よりも大切なロレンツォのことを、言い忘れるなどあり得ない……。





「『お前がわざと俺に渡さなかった』。そういう状況を作りたかったのだろう。何かの拍子に、その二つ目が荷物から出て来たら、余計信憑性が増すな」





 ナーディアは、愕然とした。ロレンツォは、乱暴に手紙を丸めると、懐に戻した。





「もちろん俺は、お前がそんな人間じゃないことはわかっている。そのお守りを身に着けて来たお前を見て、フローラ嬢の企みは察しが付いた。それなのに、お前は姉を信用しきっていて……。打ち明けるべきか、ずいぶん迷った」





「どうして、姉様がそんなことを……」





 フローラが自分を陥れたなんて、認めたくない。でもそれなら、今回に限ってお守りを託した理由も説明がつくな、とナーディアはぼんやり思った。





「俺は、その理由が想像できるが……。まあとにかく、彼女を信用するな。それから、今着けているお守りをよこせ」





「こちらを? 荷物に入っていた方ではなく?」





「そっちは、恐らく必要ないだろう。でも一応、後でくれ」





 よくわからないが、ナーディアは取りあえず、言われた通りにお守りを外すと、ロレンツォに渡した。





「これをどうするんだ?」



「少し、調べてみたいんだ」





 ロレンツォは、短く答えると、自分の上着を脱いでナーディアに着せかけた。





「王都と違って、こちらは冷える。ガラス細工の店まで、着ているといい」





 ありがとう、とナーディアは小さな声で礼を言った。ロレンツォといると、自分がか弱い女になったような気がする。でも不思議と、不快ではなかった。
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