最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
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「お尋ねの通り、俺はロレンツォ・ディ・フェリーニですが」
あっさり名乗った後、男……ロレンツォは、たたみかけるようにナーディアに尋ねた。
「ではあなたが、あの『ラクサンドのネモフィラ』の妹君ですか? 最強騎士と歌われる?」
一瞬、わけのわからない不快感がナーディアを襲った。『ラクサンドのネモフィラ』の妹にして、最強騎士。この国では、誰もがナーディアをそう呼ぶ。そしてその称号に、ナーディアは満足していたはずだった。自分は、騎士として生きるのだ。女性として魅力を認めてもらう必要はない。第一、国最強と認められるなど、騎士にとってこれほどの名誉があるか。そう思ってきたのに……。
(きっと、この男が身の程知らずだからだ)
ナーディアは、自分の不快の理由を、そう解釈した。フェリーニ侯の子息とはいえ、彼はしょせん庶子だ。しかも、つい最近まで辺境暮らしだった男。そんな男が、国一番の美貌と言われる姉に関心を持った厚かましさに、自分は苛立ったのだろう。
ナーディアは、ロレンツォの問いかけには答えずに、彼をにらみつけた。
「こちらはまだお前の質問に答えていないというのに、さらなる質問を投げかけるとは。まともな会話術を学んでこられなかったのか?」
辺境暮らしを当てこすられたとわかったのだろう。ロレンツォの顔が微かに引きつる。傍らで、はらはらした様子で見守っていたマリーノは、わずかに笑みを浮かべた。面白くなってきた、そう顔に書いてある。
「最初の質問に答えさせていただくが……。ロレンツォ、『不正』と評したのは、確かにお前のことだ。お前は、王宮近衛騎士団のメンバー全員と手合わせせずして、ちゃっかり潜り込んだ。そのような輩を、黙って見過ごすわけにはいかない。私は、お前に手合わせを申し込む」
ロレンツォの目を見て、きっぱりと告げる。だが彼は、意外にも顔色ひとつ変えなかった。
「手合わせ自体は、受けても構いませんが……。俺の入団は、もう決まったことです。ザウリ団長の決定を覆すことは、できませんよ?」
「フェリーニ侯の甥御殿の、な」
マリーノが嫌みったらしく口を挟んだが、ロレンツォはあくまでも飄々としていた。
「入団が覆るわけでもないのに、そんな手合わせをするのは、時間と労力の無駄だと、俺は思いますがね。それよりも、来るべき舞踏会で、警護という職務を全うすることにエネルギーを注いだ方がよいのではありませんか? 先輩方」
「お前なんぞに言われんでも、わかっている!」
マリーノが、カッと気色ばむ。ロレンツォは、鷹揚に微笑んだ。
「ならばよかったです。では、警護はあなた方にお任せするとして、俺は舞踏会を満喫するとしましょう……。幸い、職務開始はまだ先なのでね。というわけで俺は、『ラクサンドのネモフィラ』にエスコートの申し込みをいたします」
「「何だと!?」」
ナーディアとマリーノは、同時に声を上げていた。
あっさり名乗った後、男……ロレンツォは、たたみかけるようにナーディアに尋ねた。
「ではあなたが、あの『ラクサンドのネモフィラ』の妹君ですか? 最強騎士と歌われる?」
一瞬、わけのわからない不快感がナーディアを襲った。『ラクサンドのネモフィラ』の妹にして、最強騎士。この国では、誰もがナーディアをそう呼ぶ。そしてその称号に、ナーディアは満足していたはずだった。自分は、騎士として生きるのだ。女性として魅力を認めてもらう必要はない。第一、国最強と認められるなど、騎士にとってこれほどの名誉があるか。そう思ってきたのに……。
(きっと、この男が身の程知らずだからだ)
ナーディアは、自分の不快の理由を、そう解釈した。フェリーニ侯の子息とはいえ、彼はしょせん庶子だ。しかも、つい最近まで辺境暮らしだった男。そんな男が、国一番の美貌と言われる姉に関心を持った厚かましさに、自分は苛立ったのだろう。
ナーディアは、ロレンツォの問いかけには答えずに、彼をにらみつけた。
「こちらはまだお前の質問に答えていないというのに、さらなる質問を投げかけるとは。まともな会話術を学んでこられなかったのか?」
辺境暮らしを当てこすられたとわかったのだろう。ロレンツォの顔が微かに引きつる。傍らで、はらはらした様子で見守っていたマリーノは、わずかに笑みを浮かべた。面白くなってきた、そう顔に書いてある。
「最初の質問に答えさせていただくが……。ロレンツォ、『不正』と評したのは、確かにお前のことだ。お前は、王宮近衛騎士団のメンバー全員と手合わせせずして、ちゃっかり潜り込んだ。そのような輩を、黙って見過ごすわけにはいかない。私は、お前に手合わせを申し込む」
ロレンツォの目を見て、きっぱりと告げる。だが彼は、意外にも顔色ひとつ変えなかった。
「手合わせ自体は、受けても構いませんが……。俺の入団は、もう決まったことです。ザウリ団長の決定を覆すことは、できませんよ?」
「フェリーニ侯の甥御殿の、な」
マリーノが嫌みったらしく口を挟んだが、ロレンツォはあくまでも飄々としていた。
「入団が覆るわけでもないのに、そんな手合わせをするのは、時間と労力の無駄だと、俺は思いますがね。それよりも、来るべき舞踏会で、警護という職務を全うすることにエネルギーを注いだ方がよいのではありませんか? 先輩方」
「お前なんぞに言われんでも、わかっている!」
マリーノが、カッと気色ばむ。ロレンツォは、鷹揚に微笑んだ。
「ならばよかったです。では、警護はあなた方にお任せするとして、俺は舞踏会を満喫するとしましょう……。幸い、職務開始はまだ先なのでね。というわけで俺は、『ラクサンドのネモフィラ』にエスコートの申し込みをいたします」
「「何だと!?」」
ナーディアとマリーノは、同時に声を上げていた。