最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

5

「ロレンツォ、お前……。宮廷舞踏会の場がどんなものか、心得ているのか!?」





 ナーディアは、ロレンツォに詰め寄った。未婚の男女が連れ立って姿を現せば、婚約していると見なされても当然だというのに。いくら辺境出身で、王都の風習に疎いからといって……。





「俺は、フローラ嬢の婚約者候補として、是非名乗りを上げたいものでね。家柄的にも釣り合いに問題は無いし、彼女もきっと受けてくれると信じています」





 大胆不敵に言い切るロレンツォに、ナーディアは絶句した。確かに、釣り合いの問題はない。というより、モンテッラ家の方が明らかに格下だ。だが、フローラが受けるという自信は、どこからやって来るのか……。





(自信家を通り越して、ただの馬鹿なのか?)





 ナーディアは、慎重に言葉を選んだ。





「あいにくだが、姉のエスコート役は兄コルラードに、すでに決まっている」



「俺に乗り換えさせてみせます」





 間髪入れずに、ロレンツォが言い返す。さすがにナーディアはカッとなった。





(冗談じゃない。フローラ姉様に、妙な噂が立ってなるものか……!)





 名門侯爵家の子息とはいえ、庶子。しかも、こんな不遜な男。フローラだって、お呼びでないに決まっている。ナーディアは、ロレンツォを見すえて言い放った。





「ロレンツォ。やはり手合わせを願いたい」



「また蒸し返すんですか?」



「違う」





 ナーディアは、激しくかぶりを振った。





「今の件だ。お前の言っていることは、非常識すぎる。だから、手合わせして私が勝てば、お前には姉のエスコートを諦めてもらう。ちょうどいいだろう? 互いの実力も測れることだしな」



「そりゃあいい」





 すぐさま賛同したのは、ロレンツォではない。マリーノだ。顔には、期待に満ちた笑みを浮かべている。ナーディアにコテンパンにされて、恥を掻くロレンツォを見たいのだろう。





「どうだ、ロレンツォ?」





 マリーノが、ロレンツォを見やる。ロレンツォは、少し思案する風を見せたが、やがて頷いた。





「構いません。ですが、エスコートの機会を逃したとしても、俺がフローラ嬢を諦めることはありませんよ? 舞踏会で、ダンスにお誘いするのは自由だ。彼女は必ずや、俺を選ぶことでしょう」



「は! 今から予防線か? ナーディアに勝つ自信がないのだろう」





 マリーノはせせら笑ったが、ナーディアの方は、もう限界だった。ロレンツォに向かって言い放つ。





「では、今から勝負だ! 今日の調練が始まる前に、決着をつけようではないか」





(本当に傲慢で、厚かましい男だ。目に物を見せてくれるわ……!)
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