最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

13

 ガラス細工の店に到着する頃には、ナーディアの憂鬱も少し晴れてきた。店内にひしめくきらびやかな小物類は、ナーディアを一気に華やいだ気分にさせたのだ。可愛らしい髪飾りに、アクセサリー、食器、置物……。それらは、ナーディアの奥底に眠る女性の部分を、否応なしに刺激した。もしかして、そこまで見越してここへ連れて来たのかと思うと、ロレンツォが小憎らしく感じられたくらいだ。





 ロレンツォは見立ててやると言い張ったが、それは恥ずかしいので、彼には店の外で待ってもらうことにした。ナーディアが店内に入ると、店主らしき陽気な女性が寄って来た。立て板に水といった調子で、次々と商品を勧め始める。





「瞳のお色に合わせて、ブルーガラスのペンダントはいかがかしら。鎖は……、シルバーよりもゴールドの方が似合われそうだわ。健康的なお肌の色に、きっと映えますよ」





 ブルーとゴールドといえば、ラクサンド王国のナショナルカラーであり、王宮近衛騎士団の制服の色でもある。ナーディアは、それに決めた。同時に、日焼けした自分の肌を『健康的』と言い換えた、彼女の表現の巧みさに、感心する。





「どちらからいらっしゃったのです?」





 店主は、気さくに話しかけてくる。王都からだと答えると、店主はおやという顔をした。





「珍しいこともあるもんだわ。つい先日も、王都の方から男性が見えたのよ。こんなに立て続けに来られるなんて、いつぶりかしら」





「こちらは、男性客も多いのですか?」





 意外に思って尋ねると、店主は苦笑しながらかぶりを振った。





「その方は、結局何も買われなかったのよ。買い物よりも、聞き込みが目当てだったみたい」





「聞き込み?」





 ええ、と店主は身を乗り出した。





「もしかして、国王陛下の密偵か何かかもしれない。とても紳士的な、貴公子然とした男性だったのだけれど……。二十代前半くらいで、髪色はダークブラウン、淡いグレーの目をされていたわ」





 ドキリとした。その特徴を全て備えた男が、ごく身近にいるではないか。しかも彼は、最近旅に出たと言っていた。





(ダリオが、ここへ来た……!?)
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