最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「あの、その男性って……」



「どうして、よく覚えているかというとね!」





 ナーディアの問いかけを、女店主は遮った。何やら、妙に興奮している。





「うちの長年の常連さんに、そっくりだったからなの! ここ最近はお見えにならないけれど、ずっと贔屓にしてくださっていてね……。髪と目の色も、さっきの男性と同じよ。年齢差を考えても、絶対に親子だと思う」





 つまりはフェリーニ侯爵か、とナーディアは思った。最近現れないというのは、ロレンツォの母・シルヴィアが亡くなり、ロレンツォが王都へ移り住んだからだろう。





「その方、常連だったのですか?」



「ええ。定期的に王都から来られては、アクセサリーをお買い求めだったわ。きっとこちらに、現地妻がいらしたのね」





 店主が、意味ありげな笑みを浮かべる。シルヴィアへのプレゼントだろう。それ以上聞いてはいけない気がしたのだが、店主のお喋りは止まらなかった。





「でも、あんな紳士的な方に想われるなら、お妾生活も悪くないかな、なんて思ったわよ。とても高価な品を、毎度お買い上げでね……。必ず、彼女の名前を彫るよう指示なさるのよ。『愛しいエメリアへ』って」





「エメリア!?」





 ナーディアは、思わず聞き返していた。しまったという様子で、店主が口をつぐむ。





「失礼を。私ったら、喋りすぎましたわね。どうか、お忘れいただいて……」





 どういうことだ、とナーディアは愕然とした。ロレンツォの母親は、シルヴィアという名ではないのか。





(愛人が二人いた? 同じコドレラに? まさか)





 しかも、エメリアといえば、ジャンニの母親の名ではないか。ロベルト同様、フェリーニ侯爵が執心していた女性。そんな偶然があるだろうか……。





 ナーディアは、一つの結論を導き出そうとしていた。





シルヴィアなどという女性は存在しなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)





 フェリーニ侯爵の愛人としてコドレラに住んでいたのは、追放されたはずのエメリアだったのだ。





(つまり、ロレンツォは……)
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