最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
第十一章 彼の正体

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 その夜ナーディアは、ある決意を胸に、ロレンツォの部屋を訪れた。





 ロレンツォが、本当にジャンニなのだとしたら。彼がなぜフローラに……モンテッラ家に近付いたのか、理由がおおよそ推察できたからだ。それは、できれば認めたくないものだった。





(確かめる術は……、一つ)





 出迎えたロレンツォに向かって、ナーディアは平静を装って微笑んだ。





「今日は、色々ありがとう。礼と言っては何だが、酒を持って来た」





 手土産のリキュールを見せると、ロレンツォはにこりとした。





「わざわざ、悪いな」



「それから、その……。体は平気か、と思って。今日の手合わせで、確か背中に強く打ち込まれてたろう?」



「心配してくれたのか? あれくらい、どうってことない」





 ロレンツォは、やや訝しげに答えた。それもそのはず、普段の王宮近衛騎士団での調練に比べれば、今日ロレンツォが受けた傷くらい、大したことはない。それでも案じる風を装ったのは、ある事実を確認するためだ。





「過信は禁物だぞ。手当てしてやるよ。自分では届かないだろう? 明日からは、またオルランド殿下に付いて回らないといけないんだ。体調は万全に整えた方がいい」





 救急セットを見せながら、ナーディアは強調した。





「過保護だな」





 クスクス笑いながらも、ロレンツォはあっさり部屋に通してくれた。二人きりになると、緊張が走るのを感じる。ナーディアは、ぐっと拳を握りしめた。





「座ったままでいいか?」





 ベッドに腰かけながら、ロレンツォが尋ねる。座った状態の方が、都合は良い。ナーディアは、ああと答えたが、不覚にも声がかすれるのがわかった。 





 シャツを脱いでいくロレンツォの背後に、座り込む。見つめる先は、今日傷を負った背中ではない。――右肩だ。





 十四年前の試合後、ジャンニは右肩をしつこく押さえていた。かなりの痛手を負ったのは確かだ。だとすれば、今でも微かに痕が残っている可能性はある。以前一緒に閉じ込められた時、上を脱いだロレンツォも見たが、あの時は気恥ずかしくて正視できなかった。だから、傷痕があったとしても気付かなかっただろう。





(でも、十四年も前だ。消えているかも……)





 願わくば、綺麗な肌でありますように。そう思いながら、ロレンツォを見つめる。彼の肩から、シャツが滑り落ちた。――その右肩には、微かに赤い筋があった。
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