最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
6
ナーディアと新入りのロレンツォが対決すると聞いて、調練場には大勢の騎士が詰めかけた。王宮近衛騎士団のメンバーだけでなく、一般の騎士らの姿も見える。彼らは、口々に囃し立てていた。
「頑張れよ、『最強騎士』!」
「遠慮なくやっちまえ。新人だからって、加減しなくていいぞ!」
自分を応援してくれる声に、ナーディアは心温まるのを感じた。騎士団に入った当初は、女ということで、差別されたり侮蔑されたりはざらだった。だが今や、皆ナーディアを認めてくれている。
(……それに)
士官学校での厳しい鍛錬に耐え、狭き門をくぐり抜けてこの王立騎士団に入った苦労は、皆同じだ。辺境からやって来て、苦もなくポンと加わったロレンツォのことは、誰しも苦々しく思っているに違いなかった。
(だったらなおさら、ロレンツォには大敗してもらわないと……)
「さっさと片付けようぜ」
ナーディアは、あえて挑発的にロレンツォに声をかけた。調練が始まるまで、あと約三十分。それまでに勝負を終えられる自信は、十分あった。
(そう、恐れることなんて、何もないではないか。私は、勝ってみせる……!)
だが、なぜだろう。ロレンツォのエメラルドグリーンの瞳と目が合うと、ナーディアは言い様のない不安に襲われた。
「こちらの台詞です……。いきますよ」
言うが早いか、ロレンツォが踏み込んでくる。ナーディアは素早くかわすと、間合いから抜けた。瞬時に体勢を立て直し、渾身の力を込めて打ち込む。圧倒的な速さのはずだった、……が。
カチン、と鈍い音がした。ロレンツォが、ナーディアの剣を受け止めたのだ。おお、と歓声が上がる。
(確かに、強い……)
どれほど鍛えようとも、やはりナーディアには、腕力の点で男性にハンデがある。だからその分を、敏捷さで補ってきた。今のナーディアの打ち込みを受け止められたということは、ロレンツォはかなり腕が立つと言えよう。
刃がかち合う音が、響き続ける。ロレンツォは、すさまじい力で押し返してきた。腕力が、並みではない。ナーディアは、冷や汗をかくのを感じた。
(まずい。このままでは押し切られる……)
だが次の瞬間、ロレンツォの力が、微かに緩むのがわかった。力を加減した、それは明らかだった。
(私が、女だからか……!?)
ナーディアは、カッとなった。手を抜かれるのは、負けることの何十倍も腹立たしい。ナーディアは、思わず叫んでいた。
「本気でかかってこい!」
その瞬間、ロレンツォのエメラルドグリーンの瞳が、大きく見開かれた。
「頑張れよ、『最強騎士』!」
「遠慮なくやっちまえ。新人だからって、加減しなくていいぞ!」
自分を応援してくれる声に、ナーディアは心温まるのを感じた。騎士団に入った当初は、女ということで、差別されたり侮蔑されたりはざらだった。だが今や、皆ナーディアを認めてくれている。
(……それに)
士官学校での厳しい鍛錬に耐え、狭き門をくぐり抜けてこの王立騎士団に入った苦労は、皆同じだ。辺境からやって来て、苦もなくポンと加わったロレンツォのことは、誰しも苦々しく思っているに違いなかった。
(だったらなおさら、ロレンツォには大敗してもらわないと……)
「さっさと片付けようぜ」
ナーディアは、あえて挑発的にロレンツォに声をかけた。調練が始まるまで、あと約三十分。それまでに勝負を終えられる自信は、十分あった。
(そう、恐れることなんて、何もないではないか。私は、勝ってみせる……!)
だが、なぜだろう。ロレンツォのエメラルドグリーンの瞳と目が合うと、ナーディアは言い様のない不安に襲われた。
「こちらの台詞です……。いきますよ」
言うが早いか、ロレンツォが踏み込んでくる。ナーディアは素早くかわすと、間合いから抜けた。瞬時に体勢を立て直し、渾身の力を込めて打ち込む。圧倒的な速さのはずだった、……が。
カチン、と鈍い音がした。ロレンツォが、ナーディアの剣を受け止めたのだ。おお、と歓声が上がる。
(確かに、強い……)
どれほど鍛えようとも、やはりナーディアには、腕力の点で男性にハンデがある。だからその分を、敏捷さで補ってきた。今のナーディアの打ち込みを受け止められたということは、ロレンツォはかなり腕が立つと言えよう。
刃がかち合う音が、響き続ける。ロレンツォは、すさまじい力で押し返してきた。腕力が、並みではない。ナーディアは、冷や汗をかくのを感じた。
(まずい。このままでは押し切られる……)
だが次の瞬間、ロレンツォの力が、微かに緩むのがわかった。力を加減した、それは明らかだった。
(私が、女だからか……!?)
ナーディアは、カッとなった。手を抜かれるのは、負けることの何十倍も腹立たしい。ナーディアは、思わず叫んでいた。
「本気でかかってこい!」
その瞬間、ロレンツォのエメラルドグリーンの瞳が、大きく見開かれた。