最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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 ナーディアと新入りのロレンツォが対決すると聞いて、調練場には大勢の騎士が詰めかけた。王宮近衛騎士団のメンバーだけでなく、一般の騎士らの姿も見える。彼らは、口々に囃し立てていた。





「頑張れよ、『最強騎士』!」



「遠慮なくやっちまえ。新人だからって、加減しなくていいぞ!」





 自分を応援してくれる声に、ナーディアは心温まるのを感じた。騎士団に入った当初は、女ということで、差別されたり侮蔑されたりはざらだった。だが今や、皆ナーディアを認めてくれている。





(……それに)





 士官学校での厳しい鍛錬に耐え、狭き門をくぐり抜けてこの王立騎士団に入った苦労は、皆同じだ。辺境からやって来て、苦もなくポンと加わったロレンツォのことは、誰しも苦々しく思っているに違いなかった。





(だったらなおさら、ロレンツォには大敗してもらわないと……)





「さっさと片付けようぜ」





 ナーディアは、あえて挑発的にロレンツォに声をかけた。調練が始まるまで、あと約三十分。それまでに勝負を終えられる自信は、十分あった。





(そう、恐れることなんて、何もないではないか。私は、勝ってみせる……!)





 だが、なぜだろう。ロレンツォのエメラルドグリーンの瞳と目が合うと、ナーディアは言い様のない不安に襲われた。





「こちらの台詞です……。いきますよ」





 言うが早いか、ロレンツォが踏み込んでくる。ナーディアは素早くかわすと、間合いから抜けた。瞬時に体勢を立て直し、渾身の力を込めて打ち込む。圧倒的な速さのはずだった、……が。





 カチン、と鈍い音がした。ロレンツォが、ナーディアの剣を受け止めたのだ。おお、と歓声が上がる。





(確かに、強い……)





 どれほど鍛えようとも、やはりナーディアには、腕力の点で男性にハンデがある。だからその分を、敏捷さで補ってきた。今のナーディアの打ち込みを受け止められたということは、ロレンツォはかなり腕が立つと言えよう。





 刃がかち合う音が、響き続ける。ロレンツォは、すさまじい力で押し返してきた。腕力が、並みではない。ナーディアは、冷や汗をかくのを感じた。





(まずい。このままでは押し切られる……)





 だが次の瞬間、ロレンツォの力が、微かに緩むのがわかった。力を加減した、それは明らかだった。





(私が、女だからか……!?)





 ナーディアは、カッとなった。手を抜かれるのは、負けることの何十倍も腹立たしい。ナーディアは、思わず叫んでいた。





「本気でかかってこい!」





 その瞬間、ロレンツォのエメラルドグリーンの瞳が、大きく見開かれた。
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