最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

9

「呪い!?」





 聞き間違えたかと思った。ロレンツォが、残念そうに頷く。





「あいにく、確かな情報だ。俺のお前への気持ちに、フローラ嬢は気付いているに違いない」





 何かの手違いだと思いたかった。だが、フローラはハーブに詳しい。間違えるはずはなかった。





「もちろん、そうさせたのは俺の責任だ。愛してもいないのに騙したことも、悪いと思っている。……だが、それを考慮しても、実の妹にこんな仕打ちをする女は、おぞましい」





 ナーディアは、放り出されたお守りを、呆然と見つめた。つい数時間前まで、大切に身に着けていたそれが、急に禍々しく見えてくる。





「父上の無念を晴らすためには、好きでもない女と結婚することくらい、何でもないと思っていた。モンテッラ家に入って、ロベルト・ディ・モンテッラが築き上げてきた、爵位、財産、領地の全てをいただく。そして、彼の娘に生ませた俺の子に、それを引き継ぐのだと……。だがはっきり言って、俺は本当にフローラ嬢を抱けるのかと思う。正直、触れることすらできそうにない」





 『口づけの一つもしてくださらない』というフローラの言葉が蘇る。ナーディアは、ロレンツォをじっと見つめた。





「ジャンニ」





 そう呼びかけると、ロレンツォのエメラルドグリーンの瞳は軽く揺れた。





「お前の最終目的は何だ? 今言っただけで終わりではないだろう」





 言いながらナーディアは、さりげなく背後に手を回した。腰に忍ばせてある短剣の柄を、握りしめる。





「ロベルト・ディ・モンテッラの命を奪う」





 ロレンツォは、躊躇なく答えた。予想通りの答に、目の前が暗くなる。





「いくら、愛するお前の父親でも、これだけは譲れない。十四年間、それだけを胸に生きてきたんだ。亡き父上の敵を取ると、母上にも誓った……。どうだ、俺を殺すか?」





 ナーディアは、ドキリとした。





「お前のことだ。こんな話をするのに、丸腰で来たわけじゃないだろう。背後に持っているのは、剣か?」





「……」





「いいぜ」





 ナーディアは、耳を疑った。ロレンツォが、両手を広げてみせる。





「ご覧の通り、俺は何も持っちゃいない。殺すなら、今だぞ」



「……どうして」





 声がかすれる。ロレンツォは、顔を歪めた。





「お前になら、殺されてもいいと思っているからだ。……さあ、このままだと、俺はお前の父親を殺すぞ? 父親の命が惜しければ、ここで俺を殺せ!」
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