最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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 押しのけたいのに、腕に力が入らなかった。口移しに飲まされたリキュールの味が蘇る。



「さっきの酒か……? 何か仕込んだな。どうやって……」



「害はない。体の自由が利かなくなるだけだ。あらかじめ、グラスに仕込んでいた」



「卑怯な……。いっそ、ひと思いに殺せ」



「言ったろう。俺は、お前を殺せない」



 ロレンツォが、低く呟く。



「ナーディア、愛している」



 驚くほど真剣な声音だった。エメラルドグリーンの瞳は、激しい熱を帯びている。単なる口封じで、女を犯そうとしている男の目ではなかった。そこには、狂おしいまでの情慾と……、そして深い悲しみが宿っていた。



「誰にもやるものか……。ダリオ様にも、マリーノにも……。これでお前は、俺のものだ……」



 もういいではないか、とナーディアは思った。これが他の男だったら、舌を噛み切って自害してでも、拒んだだろう。でも、ロレンツォなのだ。ずっと、想ってきた……。



 ナーディアは、まだ多少力の入る腕を、ロレンツォの背に回した。ロレンツォが、ハッとしたように目を見開く。



(ロレンツォ……。ジャンニ……。愛してる……)



 その夜ナーディアは、心の中で何度も繰り返したのだった。
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