最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
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今日のオルランドの予定は、要塞の視察である。敵国・シリステラとの国境沿いということで、コドレラの北端には、数々の堅牢な砦が建ち並んでいる。最近シリステラには、軍備の増強に励んでいるという噂があった。近いうちに、イリヴェンへ戦を仕掛けるものと見られており、オルランドが気にかけるのも当然と思われた。
初日にも見たその光景を、ナーディアは改めて思い出していた。敵の攻撃に備えるという点では安心だが、古めかしい石造りの砦たちは、どこか暗い雰囲気を醸し出していた。
わけもなく不吉な予感に駆られ、ナーディアは入念に準備をした。愛用の剣だけでなく、普段持たない武具まで取りそろえて重装備をする。それは、『第六感』とでも表現すべきものだった。
オルランドの部屋まで迎えに上がると、ナーディアはまず礼を述べた。
「昨日は、お休みをいただきありがとうございました」
「たった半日だがな。どうだ、有意義に過ごせたか?」
オルランドは、何気ない様子で尋ねた。
「ええ。こちらの騎士団の方々に手合わせをしていただきました。良い経験になりましたよ」
するとオルランドは、こんなことを言い出した。
「ああ、それで思い出したぞ。コドレラの騎士団だが、今日は、見習いの女性騎士が付いて来るそうだ。お前に憧れていて、会ってみたかったらしい」
「……そうですか」
見習いなど足手まといだな、とナーディアは正直思った。王太子の視察ともなれば、厳重警戒して警護に当たらないといけないのに、世話を焼いている場合ではない。とはいえ、サルトール辺境伯には世話になっているから、迷惑だとも言えなかった。ナーディアは不承不承、承知しましたと答えたのだった。
果たしてやって来た女性騎士を見て、ナーディアは眉をひそめたくなった。いくら見習いとはいえ、貧弱すぎる体つきだったのだ。ナーディアほど鍛えろとは言わないが、どう見ても戦闘向きではない。さらに言えば、手綱さばきもおぼつかなかった。馬にも乗りこなせなくて騎士と言えるのか、とナーディアは密かに思った。
あれこれ話しかけてくる女性騎士を適当にあしらいつつ、ナーディアはコドレラ騎士団のメンバーを一瞥した。今日は、セルジオはいないようだ。今ひとつ反りが合わない彼の不在に、ナーディアはややほっとした。
こうしていつものように、王立騎士団とコドレラの騎士団の合同警護の下、オルランドは出発した。ナーディアは、オルランドにぴたりと寄り添って、周囲に目を光らせた。このコドレラでの護衛が、最後の職務になるかと思うと、気が抜けなかったのだ。そしてそれだけでなく、何やら注意した方がよい予感がした。
ロレンツォは、時折チラチラとこちらを伺っている。ナーディアは、気付かないふりをした。恐らくは、体を気遣っているのだろう。昨夜は、朝まで共に過ごしたいというロレンツォを振り切って自室に戻ったのだが、彼はしつこくナーディアの体を案じていたものだ。犯しておきながら勝手な、と言いたかった。第一、心配などされたくない。今日からは、敵同士なのだから。
初日にも見たその光景を、ナーディアは改めて思い出していた。敵の攻撃に備えるという点では安心だが、古めかしい石造りの砦たちは、どこか暗い雰囲気を醸し出していた。
わけもなく不吉な予感に駆られ、ナーディアは入念に準備をした。愛用の剣だけでなく、普段持たない武具まで取りそろえて重装備をする。それは、『第六感』とでも表現すべきものだった。
オルランドの部屋まで迎えに上がると、ナーディアはまず礼を述べた。
「昨日は、お休みをいただきありがとうございました」
「たった半日だがな。どうだ、有意義に過ごせたか?」
オルランドは、何気ない様子で尋ねた。
「ええ。こちらの騎士団の方々に手合わせをしていただきました。良い経験になりましたよ」
するとオルランドは、こんなことを言い出した。
「ああ、それで思い出したぞ。コドレラの騎士団だが、今日は、見習いの女性騎士が付いて来るそうだ。お前に憧れていて、会ってみたかったらしい」
「……そうですか」
見習いなど足手まといだな、とナーディアは正直思った。王太子の視察ともなれば、厳重警戒して警護に当たらないといけないのに、世話を焼いている場合ではない。とはいえ、サルトール辺境伯には世話になっているから、迷惑だとも言えなかった。ナーディアは不承不承、承知しましたと答えたのだった。
果たしてやって来た女性騎士を見て、ナーディアは眉をひそめたくなった。いくら見習いとはいえ、貧弱すぎる体つきだったのだ。ナーディアほど鍛えろとは言わないが、どう見ても戦闘向きではない。さらに言えば、手綱さばきもおぼつかなかった。馬にも乗りこなせなくて騎士と言えるのか、とナーディアは密かに思った。
あれこれ話しかけてくる女性騎士を適当にあしらいつつ、ナーディアはコドレラ騎士団のメンバーを一瞥した。今日は、セルジオはいないようだ。今ひとつ反りが合わない彼の不在に、ナーディアはややほっとした。
こうしていつものように、王立騎士団とコドレラの騎士団の合同警護の下、オルランドは出発した。ナーディアは、オルランドにぴたりと寄り添って、周囲に目を光らせた。このコドレラでの護衛が、最後の職務になるかと思うと、気が抜けなかったのだ。そしてそれだけでなく、何やら注意した方がよい予感がした。
ロレンツォは、時折チラチラとこちらを伺っている。ナーディアは、気付かないふりをした。恐らくは、体を気遣っているのだろう。昨夜は、朝まで共に過ごしたいというロレンツォを振り切って自室に戻ったのだが、彼はしつこくナーディアの体を案じていたものだ。犯しておきながら勝手な、と言いたかった。第一、心配などされたくない。今日からは、敵同士なのだから。