最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

3

 オルランド一行は、つつがなく砦付近へと到着した。昼間だというのに、相変わらず暗い雰囲気だ。建ち並ぶうちの一つは、騎士団の寮だという。今は職務中だからだろう、人気がなかった。





 その時、きゃあっと悲鳴が上がった。最後尾を付いて来ていた見習い女性騎士が、落馬したのだ。やはり足手まといではないか、とナーディアは内心舌打ちした。同僚の男性騎士らが駆け寄り、介抱を始める。しばらくして、一人がナーディアの元へやって来た。





「すみませんが、彼女の手当てをしていただけませんか。足首をひねったようで」



「殿下のお傍を離れるわけには参りません。あなた方で、お願いします」





 ナーディアはキッパリ断ったが、相手はしつこかった。





「オルランド殿下の警護でしたら、私どもが代わりますから。男性に触れられるのは恥ずかしいと、彼女は申しているのです。ですから、同じ女性にお願いできないかと……」





「殿下の護衛は、私の役目です! 大体、馬にも乗りこなせないような見習いを連れて来たのは、あなた方の責任です。そちらで、どうにかなさってください」





 ぴしゃりと言い返せば、さすがに相手は引き下がった。オルランドは、この付近の土地に関心があるらしく、馬を止めてサルトール辺境伯と会話している。ナーディアは、神経を尖らせながら周囲を観察した。





 やがてオルランドは、馬から降りると、辺境伯にあれこれ尋ね始めた。ナーディアも、同様に馬から降りる。引き続き注意深く辺りを見回していたその時、ナーディアはおやと思った。人気がなかった騎士団の寮の、遙か上階のバルコニーに、人影が見えたのだ。





(休みを取っている者だっているだろう)





 そう思うものの、何だか気になって、ナーディアは人影を注視した。男性のようだった。じっと、こちらを見つめている……。正確には、オルランドを。





 そこでナーディアは、ハッとした。男が、何かを構えたのだ。弓だった。





「殿下!!」





 悲鳴のような声と共に、ナーディアはとっさにオルランドを突き飛ばしていた。驚いて地面に倒れ込んだ彼を庇うように、上に覆いかぶさる。次の瞬間、背中に鋭い痛みを覚えた。矢が刺さったのか。





「オルランド殿下!?」



「ナーディア!」





 ロレンツォをはじめとする王立騎士団のメンバーらが、慌てて駆け付けて来る。だが、そこにコドレラの騎士たちが立ちはだかった。彼らは、無言で剣を抜いた。





(全員、グルか……!?)





 矢を射た男が主犯だと、直感する。王立騎士団の騎士らは、コドレラの騎士たちを相手にするのに必死だ。ならば……、自分で仕留めるしか、ない。





 矢が刺さった場所から、痺れが広がってくる。痛みに耐えながら、ナーディアは腰に携帯したジャベリン(投擲用の槍)を外した。見上げれば、先ほどの人影は、再び弓を構えている。





(殿下をお守りせねば……。私の、最後の仕事……)





 騎士にはふさわしくないとされるため、使う機会が少なかったジャベリンだが、今ほど役に立つ時もなかろう。ナーディアは、狙いを定めてバルコニーへと投げ込んだ。





 人影が、仰向けに倒れていく。それが、ナーディアの目にした最後の光景だった。
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