最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
5
「ここは?」
話題を逸らそうと、ナーディアは尋ねた。
「サルトール辺境伯のお屋敷だ。彼が、医者を手配してくださった。襲撃に加わったコドレラ騎士団の連中は、全員捕らえたから、安心しろ」
「首謀者は? 矢を射た男じゃないのか」
うん、とロレンツォは何だか複雑そうな表情で頷いた。
「お前のジャベリンが命中したおかげで、逃げ遅れたらしく、あの後すぐに捕まえることはできた。……驚いたよ。セルジオだった」
「……どうして!?」
ナーディアも、目を見張った。確かに、何やらオルランドに反感がある印象はあったが、まさか暗殺を企むなど……。
「セルジオの生い立ちについては、前に少し語ったよな?」
「イリヴェンで育ったのだろ。父親が、シリステラとの戦いで戦死したと言ったっけ」
「ああ。だが、それは正確な情報じゃなかったんだ。俺も知らなかっただが……。セルジオの父親は、ラクサンド人に殺されたんだ」
「どういうことだ!?」
ナーディアは、首をかしげた。重い表情で、ロレンツォが語る。
「イリヴェンとシリステラとの戦いにおいて、ラクサンドはいつもイリヴェンに援軍を送る。だがその際、一部のラクサンド兵が戦時のドサクサに紛れて、イリヴェンの一般家庭に押し入ることがあるそうなんだ。金品を強奪したり、女性に乱暴したり……」
初めて知る事実に、ナーディアは呆然とした。
「セルジオの母親も、ラクサンド兵から暴行された。父親は、妻を助けようとして殺されたのだそうだ。その後母親が亡くなったのも、暴行されて妊娠、流産したのがきっかけだったとか……」
ナーディアは、聞いていて胸がつまった。
「それで、ラクサンドの王太子を狙ったのか」
「ラクサンドが軍など派遣するからだ、とラクサンド王室を恨んでいたそうだ。オルランド殿下がコドレラに来られると知って、暗殺を企んだ。そして、その……。言いにくいが、護衛が女性ということで、甘くみたようだ」
初日のセルジオの態度から明らかではあったが、それでもナーディアはショックを受けずにはおれなかった。でも、とロレンツォが続ける。
「数日間、お前を観察して、手強いと悟ったようだ。それで、お前を殿下から引き離すよう仕組んだ。今日付いて来た女は、見習いでも何でもない。お前を殿下から遠ざけるために、セルジオが金で雇って、送り込んだんだ」
ナーディアは、落馬の一件を思い出していた。
「コドレラの騎士たちは? なぜセルジオに協力したんだ?」
「彼らもまた、王室に不満を抱いていたんだ。ここコドレラは、ご覧の通り豊かな森林資源にあふれている。サルトール辺境伯は、それを有効活用し、林業を発展させようと頑張っておられるが、やはりこの地域だけの努力では限界がある。他国へ木材を輸出すれば、この地方はもっと潤うというのに……。今のマルコ四世陛下は、年がら年中イリヴェン・シリステラ間の戦いに介入しては国を空けられ、国内のことどころではない。不満が募っていたところへ、セルジオにけしかけられて、賛同してしまったんだ」
ロレンツォは、ぽつりと呟いた。
「もちろん、許しがたいことだが……。俺には彼らの思いも、わからなくはない」
話題を逸らそうと、ナーディアは尋ねた。
「サルトール辺境伯のお屋敷だ。彼が、医者を手配してくださった。襲撃に加わったコドレラ騎士団の連中は、全員捕らえたから、安心しろ」
「首謀者は? 矢を射た男じゃないのか」
うん、とロレンツォは何だか複雑そうな表情で頷いた。
「お前のジャベリンが命中したおかげで、逃げ遅れたらしく、あの後すぐに捕まえることはできた。……驚いたよ。セルジオだった」
「……どうして!?」
ナーディアも、目を見張った。確かに、何やらオルランドに反感がある印象はあったが、まさか暗殺を企むなど……。
「セルジオの生い立ちについては、前に少し語ったよな?」
「イリヴェンで育ったのだろ。父親が、シリステラとの戦いで戦死したと言ったっけ」
「ああ。だが、それは正確な情報じゃなかったんだ。俺も知らなかっただが……。セルジオの父親は、ラクサンド人に殺されたんだ」
「どういうことだ!?」
ナーディアは、首をかしげた。重い表情で、ロレンツォが語る。
「イリヴェンとシリステラとの戦いにおいて、ラクサンドはいつもイリヴェンに援軍を送る。だがその際、一部のラクサンド兵が戦時のドサクサに紛れて、イリヴェンの一般家庭に押し入ることがあるそうなんだ。金品を強奪したり、女性に乱暴したり……」
初めて知る事実に、ナーディアは呆然とした。
「セルジオの母親も、ラクサンド兵から暴行された。父親は、妻を助けようとして殺されたのだそうだ。その後母親が亡くなったのも、暴行されて妊娠、流産したのがきっかけだったとか……」
ナーディアは、聞いていて胸がつまった。
「それで、ラクサンドの王太子を狙ったのか」
「ラクサンドが軍など派遣するからだ、とラクサンド王室を恨んでいたそうだ。オルランド殿下がコドレラに来られると知って、暗殺を企んだ。そして、その……。言いにくいが、護衛が女性ということで、甘くみたようだ」
初日のセルジオの態度から明らかではあったが、それでもナーディアはショックを受けずにはおれなかった。でも、とロレンツォが続ける。
「数日間、お前を観察して、手強いと悟ったようだ。それで、お前を殿下から引き離すよう仕組んだ。今日付いて来た女は、見習いでも何でもない。お前を殿下から遠ざけるために、セルジオが金で雇って、送り込んだんだ」
ナーディアは、落馬の一件を思い出していた。
「コドレラの騎士たちは? なぜセルジオに協力したんだ?」
「彼らもまた、王室に不満を抱いていたんだ。ここコドレラは、ご覧の通り豊かな森林資源にあふれている。サルトール辺境伯は、それを有効活用し、林業を発展させようと頑張っておられるが、やはりこの地域だけの努力では限界がある。他国へ木材を輸出すれば、この地方はもっと潤うというのに……。今のマルコ四世陛下は、年がら年中イリヴェン・シリステラ間の戦いに介入しては国を空けられ、国内のことどころではない。不満が募っていたところへ、セルジオにけしかけられて、賛同してしまったんだ」
ロレンツォは、ぽつりと呟いた。
「もちろん、許しがたいことだが……。俺には彼らの思いも、わからなくはない」