最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

6

 そこへ、ノックの音がした。オルランドだった。





「殿下!? わざわざ……」





 慌てて起き上がろうとするナーディアを、オルランドは制した。





「そのままで構わん」





 ロレンツォがオルランドに椅子を用意し、一礼して出て行く。二人になると、オルランドはにやりと笑った。





「女に押し倒される日が来るとは思わなかった。悪くないな」



「殿下!」





 思わず金切り声を上げかけたナーディアだったが、オルランドは不意に真面目な顔になった。





「というのは、冗談だ。お前には、感謝している。心から礼を言う」



「そのような……。当然の責務を果たしたまでです」





 恐縮しながらも、ナーディアは忸怩たる思いだった。結果的に守れたからよかったものの、オルランドを危険にさらしたのは確かだ。『護衛が女性ということで、甘くみた』という先ほどのフレーズが、頭の中をぐるぐる回る。もしも護衛が男だったならば、そもそもこの事件は起きなかったのではないか。





(最後の仕事だったというのに……)





 オルランドは、そんなナーディアをじっと見ていたが、唐突にこう言い出した。





「俺の父上は、側妃こそ迎えられなかったが、それでもお若い頃は、なかなかお盛んでな。時には、特定の女を寵愛なさることもあったようだ」





「……はい?」





 ナーディアは、きょとんとした。





「母上には、上手に隠しておられた。だが、それでもなぜか毎回、見つかってしまうのだよなあ。あれは不思議だった」





「あの、失礼ですが、仰る意味が……」





「つまりだな」





 オルランドは、ナーディアを見て微笑んだ。





「女というのは、独特の勘を持っていると、俺は思うわけだ。お前、なぜ今日はそんな重装備で来た? ジャベリンなど、普段は持たんだろう」





「……予感がしたのでございます。何やら、不吉な」





 やはりか、とオルランドは頷いた。





「俺はその『女の勘』を尊重したい。危機的な状況に陥った際、最後に頼るのは勘だ。だから俺は、女だからこそ(・・・・・・)お前を護衛に付けるんだ。ナーディア、お前、自信を持て」
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