最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
7
「もったいないお言葉でございます……」
胸が詰まって、それ以上言葉が出て来ない。するとオルランドは、意外なことを言い出した。
「俺には『女の勘』はないが、あのセルジオという男は、何だかきな臭いと思っていたな。何かやらかす予感はしていた」
「……でしたらなぜ、随行させ続けたのです?」
ナーディアは、眉をひそめた。オルランドが、けろりと答える。
「何かあれば、お前が守ってくれると信じていたからな。実際、やってくれたじゃないか。ナーディア・ディ・モンテッラは、最強騎士にして、最強の王太子専属護衛だと、全ラクサンド国民が理解したことだろう。性別など関係なしにな」
ナーディアは、目を見張った。
(まさか殿下は、私を皆に認めさせるために、あえて危険にさらされた……?)
どうしよう、とナーディアは思った。そこまで配慮してくれたオルランドに、辞意など告げにくい。だがこれは、言わねばならないことだった。
「オルランド殿下」
ナーディアは、力を振り絞って起き上がった。オルランドを真っ直ぐに見て、言葉をつむぐ。
「お話ししなければいけないことがあります。実は……」
「言うな」
オルランドは、静かに遮った。その声音には、有無を言わせぬものがあった。
「ナーディア。俺はな、マリーノを可愛い部下だと思っている」
「……はい?」
またしても唐突なオルランドの言葉に、ナーディアは戸惑った。
「だが、お前とどちらが大事かと言われれば、やはりお前なんだ」
「……」
「だからな。お前に恋しい男がいて、その男もお前を憎からず思っているのであれば、是非とも応援したい。母上の仰ったことは、忘れろ」
ああ、とナーディアは思った。オルランドは、何もかもわかっているのだ。昨夜、ロレンツォとの間にあったことも。ナーディアが、今何を言おうとしたのかも……。
「殿下……」
「ナーディアは、俺の専属護衛だ。これからも、ずっと。これは、命令だ。わかったな?」
反論を許さぬ、強い語気だった。ナーディアは、平伏した。
「承知いたしました。今後とも、心よりお仕えいたします……」
ああ、とオルランドは微笑んだ。
「大怪我を負ったんだ。いいから、もう寝てろ」
言いながらオルランドは立ち上がった。だが、そのまま部屋を出て行くかと思いきや、彼はふと動きを止めた。妙に真剣な眼差しで、ナーディアを見つめている。
「一つ、聞きたいことがある。お前は、『王太子』の護衛でいたいのか。それとも、俺の護衛でいたいのか」
思いも寄らない質問に、ナーディアは一瞬絶句した。
「俺も、永久に王太子でいるわけじゃない。そうだろう?」
考えてみれば、当然の話だ。マルコ四世が若くて元気だから錯覚するが、いつかはオルランドも、国王となる日が来る……。
ナーディアは、逡巡した。確かに王太子の護衛役は、王宮近衛騎士団でトップの者しか任せてもらえない。大変に名誉あるポジションだが……。
「オルランド殿下がご即位された暁には、僭越ながら、引き続きお仕えさせていただきたく存じます」
ナーディアは、丁重に答えた。世辞や追従ではない。心からの返事だった。そうか、とオルランドが微笑む。
「ま、どのみち次の王太子の登場は、まだ先だしな。今すぐこしらえたとしても、生まれてくるのは十ヶ月先。護衛よりは、子守が必要だろう」
クックッと笑って、オルランドが部屋を出て行く。何気なく聞き流していたナーディアだったが、今の会話の意味を、近い将来知ることになるのだった。
胸が詰まって、それ以上言葉が出て来ない。するとオルランドは、意外なことを言い出した。
「俺には『女の勘』はないが、あのセルジオという男は、何だかきな臭いと思っていたな。何かやらかす予感はしていた」
「……でしたらなぜ、随行させ続けたのです?」
ナーディアは、眉をひそめた。オルランドが、けろりと答える。
「何かあれば、お前が守ってくれると信じていたからな。実際、やってくれたじゃないか。ナーディア・ディ・モンテッラは、最強騎士にして、最強の王太子専属護衛だと、全ラクサンド国民が理解したことだろう。性別など関係なしにな」
ナーディアは、目を見張った。
(まさか殿下は、私を皆に認めさせるために、あえて危険にさらされた……?)
どうしよう、とナーディアは思った。そこまで配慮してくれたオルランドに、辞意など告げにくい。だがこれは、言わねばならないことだった。
「オルランド殿下」
ナーディアは、力を振り絞って起き上がった。オルランドを真っ直ぐに見て、言葉をつむぐ。
「お話ししなければいけないことがあります。実は……」
「言うな」
オルランドは、静かに遮った。その声音には、有無を言わせぬものがあった。
「ナーディア。俺はな、マリーノを可愛い部下だと思っている」
「……はい?」
またしても唐突なオルランドの言葉に、ナーディアは戸惑った。
「だが、お前とどちらが大事かと言われれば、やはりお前なんだ」
「……」
「だからな。お前に恋しい男がいて、その男もお前を憎からず思っているのであれば、是非とも応援したい。母上の仰ったことは、忘れろ」
ああ、とナーディアは思った。オルランドは、何もかもわかっているのだ。昨夜、ロレンツォとの間にあったことも。ナーディアが、今何を言おうとしたのかも……。
「殿下……」
「ナーディアは、俺の専属護衛だ。これからも、ずっと。これは、命令だ。わかったな?」
反論を許さぬ、強い語気だった。ナーディアは、平伏した。
「承知いたしました。今後とも、心よりお仕えいたします……」
ああ、とオルランドは微笑んだ。
「大怪我を負ったんだ。いいから、もう寝てろ」
言いながらオルランドは立ち上がった。だが、そのまま部屋を出て行くかと思いきや、彼はふと動きを止めた。妙に真剣な眼差しで、ナーディアを見つめている。
「一つ、聞きたいことがある。お前は、『王太子』の護衛でいたいのか。それとも、俺の護衛でいたいのか」
思いも寄らない質問に、ナーディアは一瞬絶句した。
「俺も、永久に王太子でいるわけじゃない。そうだろう?」
考えてみれば、当然の話だ。マルコ四世が若くて元気だから錯覚するが、いつかはオルランドも、国王となる日が来る……。
ナーディアは、逡巡した。確かに王太子の護衛役は、王宮近衛騎士団でトップの者しか任せてもらえない。大変に名誉あるポジションだが……。
「オルランド殿下がご即位された暁には、僭越ながら、引き続きお仕えさせていただきたく存じます」
ナーディアは、丁重に答えた。世辞や追従ではない。心からの返事だった。そうか、とオルランドが微笑む。
「ま、どのみち次の王太子の登場は、まだ先だしな。今すぐこしらえたとしても、生まれてくるのは十ヶ月先。護衛よりは、子守が必要だろう」
クックッと笑って、オルランドが部屋を出て行く。何気なく聞き流していたナーディアだったが、今の会話の意味を、近い将来知ることになるのだった。