最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

2

 ナーディアが自分の部屋へ戻ろうとすると、騎士仲間たちが寄って来た。





「聞いたぞ。オルランド殿下を、体を張って守ったとか。さすがだぜ」





 彼らは口々にナーディアを賞賛し、慰労してくれたが、ナーディアは妙に思った。それだけにしては、彼らはやけにはしゃいでいたのだ。すると、我慢しきれなくなったのか、一人がこう言い出した。





「俺は、お前が同僚でよかったと思うよ、ナーディア! いや、実はな。お前らがコドレラに行っている間に、フローラ嬢がここへ来てくださったんだ」





「姉様が? どうして」





 そんな予定は、フローラから聞いていない。ナーディアは面食らった。





「ロレンツォは、結婚後もここへ住むだろう? おまけに、お前はマリーノと結婚する。夫と義弟がお世話になりますと、俺たちを慰労してくださったんだ。手製の差し入れを、たくさん持って来てくださったんだぜ」



 



 マリーノと結婚することは、もうあり得ないのだが。今そう言うわけにもいかず、途方に暮れていると、別の一人がこう続けた。





「しかし、ナーディアと結婚するという手もあったんだなあ! マリーノの奴、フローラ嬢にとりわけ世話を焼いてもらってたんだぜ。羨ましいったら」





「マリーノも、まんざらでもなさそうだったよな……、あ」





 そう呟いた同僚が、ハッと口を押さえる。マリーノ本人が、自室から出て来たのだ。同僚は、ナーディアとマリーノを見比べて、焦ったように付け加えた。





「いや、そういう意味じゃないからな! マリーノは、ナーディア一筋……」



「別にいいよ」





 ナーディアは、取りなすように同僚に向かって告げた。





「私は、気にしないから」





 ナーディアとしては、慌てふためく同僚を慮ったつもりだった。だが、マリーノは明らかな不快の表情を浮かべた。





「何でそこで、気にしないんだよ」



「マリーノ……」



「フローラ嬢が、仰っていたぞ」





 マリーノは、苛立たしげにナーディアを遮った。





「妹は、人の気持ちに鈍感な所がある。どうか許してやってくれないか、と」





 ナーディアは、言葉を失った。確かに、否定はできない。マリーノの気持ちにはずっと気付かなかったし、果ては娼館利用まで勧めた。だがそれを、なぜフローラから言われなければならないのだろう。





「おい」





 そこへ、コツコツと靴音が近付いて来た。ロレンツォだった。鋭い眼差しで、マリーノをにらみつけている。





「マリーノ。お前は、何年ナーディアと一緒にいるんだ? 今さら、他人の発言に振り回されて、彼女への評価を変えるのか?」
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