最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

3

「他人じゃないだろう。ナーディアの姉上だぞ」





 マリーノは、ムッとしたように言い返したが、ロレンツォの硬い表情は変わらなかった。





「ナーディアほど、人の気持ちを考えている人間を、俺は知らない。何年も側にいて、それが理解できないなんて、マリーノ、お前は正真正銘の馬鹿者だ」





「ロレンツォ……、何だと!? お前、表へ出ろ!」





 マリーノは、カッと気色ばんだが、そこへザウリの声が響いた。





「お前ら、やかましいぞ。何時だと思ってる! さっさと寝て、明日の職務に備えろ!」





 同僚たちは、慌ててそれぞれの部屋へ帰って行った。渋々ながら、マリーノも自室へ引っ込む。ナーディアも自分の部屋へ帰ろうとしたが、不意にロレンツォに腕をつかまれた。近くにあった、無人の面会室に引っ張り込まれる。





「何だよ!」



「怪我の具合が心配なんだ」





 気遣わしげに見つめてくるロレンツォから、ナーディアはふいと視線をそらした。





「問題ないし、お前に心配してもらう必要もない。……それから、さっきみたいなことも止めろ。お前に庇われたくはない」





「どうして」





 ロレンツォが、眉を寄せる。ナーディアは、彼をにらみつけた。





「決まってるだろう。お前は、私の父を殺すと言った。お前は私にとって、敵でしかない」





「ふうん?」





 ロレンツォが、意地悪そうな微笑を浮かべる。





「その割には、可愛い反応をしていたが?」





「この……!」





 張り倒してやろうと、手を振り上げるが、それはロレンツォに素早く捕らえられた。逆に抱き込まれ、強引に口づけられる。





「んっ……」





 ロレンツォの舌が侵入してくる。ナーディアは、思いきり噛みついていた。さすがに怯んだのか、ロレンツォの力が緩む。その隙にナーディアは、するりと彼の腕から抜け出した。





「二度と私に触れるな」





 そう言い残して、ナーディアは部屋を飛び出したのだった。
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