最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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 自室に荷物を置くと、ナーディアはザウリから外出許可を得て、寮を出た。実家へ向かうのだ。一刻も早く、父ロベルトに真実を伝える必要があった。





 辻馬車に揺られながら、ナーディアは考えを巡らせた。このままロレンツォを、婿として迎えるわけにはいかない。だが、ロレンツォに執着しているフローラが、素直に別の男を婿に迎えるとは思えなかった。そして自分は、もはや汚れた身だ。マリーノであろうがどの男であろうが、結婚することはできない。





(となると……)





 ナーディアは御者に、一カ所寄り道をするよう指示した。コルラードの働く居酒屋である。究極の選択だが、兄に戻って来てもらう他なかった。





(何とかして、アガタという娼婦のことは忘れていただいて、性根を入れ替えてもらって……)





 非常に実現可能性の低い賭けに、ナーディアは頭を抱えたくなった。だが、こうなった以上、やってみるしかない。





 居酒屋へ入ると、女店員がナーディアを見て、おやという顔をした。オルランドお気に入りの、ラウラとかいう巨乳娘だ。





「いらっしゃい! 今夜は、お一人? ニコラは?」



「ええ、今日は一人で……。あの、すみません。実は、飲みに来たわけじゃないんです。こちらの店員に、用があって……」





 本名で働いていたとは、思えない。ナーディアは、コルラードの容貌を説明した。ラウラが、合点した顔をする。





「もしや、ご兄妹? お顔がよく似ているわ」



「はい。大変不本意ですが」



「あら、そんなこと……」





 クスッと笑った後、ラウラは思いがけないことを告げた。





「残念だけど、お兄様なら、もう辞められたわ」



「そんな……」





 ナーディアは、愕然とした。根性のない兄のことだ、続かなくても不思議ではないが。するとラウラは、こう続けた。





「世話をしてくれるお友達が現れたんですって。つい先日、嬉しそうに辞めていったわ」



「友達?」





 あの性格だ、兄に友人は数えるほどしかいなかった。それも、ほとんどは欲得ずくで近付いて来ていた人間である。そんな人々が、勘当されたコルラードの助けになるとは思えないが……。





「ちょっと待っててね」





 ナーディアが途方に暮れていると、ラウラはいったん奥に引っ込んだ。やがて戻って来た彼女は、一枚のメモを持っていた。見覚えのあるコルラードの筆跡で、走り書きがしてある。





「この方の所に行くそうよ」



 



 メモには、ナーディアがよく知る人物の名前があった。
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