最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
5
(なぜ、ダリオが兄様を……?)
居酒屋を出てモンテッラ邸へ向かう道中、ナーディアはメモを見ながら困惑していた。コルラードが勘当された後、彼が跡を継いだ方がよかったかというナーディアの問いに対して、ダリオはキッパリと否定していた。なぜ今さら、コルラードを助けるのか。ガラス細工店での聞き込みといい、ダリオは何かを企んでいる気がして仕方なかった。
(まあいい。取りあえず今は、お父様を助けることが先だ)
近付いてきたモンテッラ邸を見つめながら、ナーディアはメモを、上着のポケットにしまい込んだのだった。
辻馬車を降りて屋敷に入ると、ナーディアはひとまず自室へ向かった。サファイアのネックレスを持ち帰るためだ。ロレンツォは敵で、そう宣言もした。だが、愛する男であることに変わりはない。さっき庇ってもらった時だって、本当は嬉しかった。彼から贈られたあのネックレスは、やはり身近に置いておきたかったのだ。
だが、自分の部屋に一歩足を踏み入れて、ナーディアは愕然とした。ワードローブが、全開になっていたのだ。そして床には、無残に引きちぎられたサファイアのネックレスが転がっていた。石の一部は、割れて粉々になっている。
「あらナーディア、帰っていたの? コドレラ行き、ご苦労だったわね」
ハッと振り返ると、開けっぱなしの扉付近には、フローラの姿があった。口元には、薄い微笑が浮かんでいる。姉のこんな表情を見たのは、初めてだった。
「姉様、これ……」
「ああ、それね。新入りのメイドがやらかしたのよ。そそっかしい娘でねえ。すぐにお父様に言って、クビにしてもらったわ」
表情を変えないまま、フローラが答える。嘘だ、とナーディアは直感した。あのネックレスは、ワードローブ内の引き出しの一番上にしまっていた。あんな高い所まで、メイドが掃除をするはずはない。第一、幼い頃からナーディアが大切な物をここにしまうと知っているのは、フローラだけだ。
「構わないわよねえ? だってあなた、言っていたじゃない。このネックレスは、自分で買った物なのでしょう?」
フローラの口元が歪む。いつ見ても美しいとしか思えなかった姉の顔が、その瞬間、初めて醜く見えた。
居酒屋を出てモンテッラ邸へ向かう道中、ナーディアはメモを見ながら困惑していた。コルラードが勘当された後、彼が跡を継いだ方がよかったかというナーディアの問いに対して、ダリオはキッパリと否定していた。なぜ今さら、コルラードを助けるのか。ガラス細工店での聞き込みといい、ダリオは何かを企んでいる気がして仕方なかった。
(まあいい。取りあえず今は、お父様を助けることが先だ)
近付いてきたモンテッラ邸を見つめながら、ナーディアはメモを、上着のポケットにしまい込んだのだった。
辻馬車を降りて屋敷に入ると、ナーディアはひとまず自室へ向かった。サファイアのネックレスを持ち帰るためだ。ロレンツォは敵で、そう宣言もした。だが、愛する男であることに変わりはない。さっき庇ってもらった時だって、本当は嬉しかった。彼から贈られたあのネックレスは、やはり身近に置いておきたかったのだ。
だが、自分の部屋に一歩足を踏み入れて、ナーディアは愕然とした。ワードローブが、全開になっていたのだ。そして床には、無残に引きちぎられたサファイアのネックレスが転がっていた。石の一部は、割れて粉々になっている。
「あらナーディア、帰っていたの? コドレラ行き、ご苦労だったわね」
ハッと振り返ると、開けっぱなしの扉付近には、フローラの姿があった。口元には、薄い微笑が浮かんでいる。姉のこんな表情を見たのは、初めてだった。
「姉様、これ……」
「ああ、それね。新入りのメイドがやらかしたのよ。そそっかしい娘でねえ。すぐにお父様に言って、クビにしてもらったわ」
表情を変えないまま、フローラが答える。嘘だ、とナーディアは直感した。あのネックレスは、ワードローブ内の引き出しの一番上にしまっていた。あんな高い所まで、メイドが掃除をするはずはない。第一、幼い頃からナーディアが大切な物をここにしまうと知っているのは、フローラだけだ。
「構わないわよねえ? だってあなた、言っていたじゃない。このネックレスは、自分で買った物なのでしょう?」
フローラの口元が歪む。いつ見ても美しいとしか思えなかった姉の顔が、その瞬間、初めて醜く見えた。