最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

12

「……まあ、とにかく」



 



 ダリオは、咳払いをした。





「僕がコルラードを呼び戻したのは、そういうわけだ。ロレンツォがこのままモンテッラ家の跡取りになるのを、指をくわえて見ているわけにはいかない。かといって、フローラの性格は昔から知っているが、ああ見えて強情だ。他の男を婿に、と言っても素直に言うことをきくとは思えない。というわけで、究極の選択をした。コルラードの性根を叩き直し、モンテッラ家に戻ってもらうしかない」





 そう言うダリオの表情は、いつになく自信なさげだった。世紀の難題だ、そう顔に書いてある。





「何だか……、申し訳ないわね。でも、ありがとう。うちの家のために」





 ナーディアは素直に礼を述べたのだが、ダリオは呆れた顔をした。





「馬鹿言うな。何で僕が、わざわざよその家の後継問題に首を突っ込まないといけないんだ。僕のために決まってるだろう」





「それは、どういう……」





「長男不在、長女の婿に問題ありときたら、ロベルト様はこう考えられるだろう。あの赤毛男を、君の婿に迎えようと。それは、僕にとって非常に都合が悪い」





 早口でまくし立てた後、ダリオは不意に席を立った。ナーディアの枕元に、跪く。





「ナーディア。この前の僕は、順番を間違えた。最初から、君にこう言うべきだったんだ……。どうか、僕の妻になって欲しい」





 ダリオの淡いグレーの瞳は、これまで見たことがないほど真剣な光をたたえていて、ナーディアは言葉に詰まった。彼が、本気で想ってくれているのはわかる。プライドの高い彼が、自らの過ちを認めたことからも、それは明らかだった。





(でも……)





 ナーディアは、静かにかぶりを振った。ダリオの顔が歪む。





「あの赤毛が好きなのか?」



「そうじゃないの。マリーノとも、結婚はしない。……というより、私はもう、誰とも結婚できないの」





 諦めてもらうには、これしかないだろう。ナーディアは、勇気を振り絞って告げた。





「私は、もう綺麗な体じゃないから。実はコドレラで、その、ロレンツォと……」





 とても皆まで言えなかったが、十分過ぎるほど伝わったらしい。ダリオは、表情を失った。
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