最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

13

 ややあって、ダリオはスッと立ち上がった。軽蔑したのだろう、とナーディアは思った。だが、出て行くかと思いきや、彼は元通りに椅子に腰かけた。ナーディアを見つめて、語りかける。





「聞かなかったことにする」





 ナーディアは、耳を疑った。ダリオの顔には、蔑みは見られなかった。むしろ、労るような表情が浮かんでいる。





「そんなことは気にしないと言ってるんだ。どうせ、ロレンツォが無体を働いたのだろう? 君は、フローラを裏切るような女じゃない。だから、そんなものはノーカウントだ」





 安堵と同時に、後ろめたさがナーディアを襲った。





(ダリオは、私を買いかぶりすぎだ……)





 ロレンツォからの二度の口づけを、ナーディアは拒まなかった。薬を盛られたとはいえ、途中からは自分の意志で彼を受け入れた。フローラを裏切っていないと、言い切れるだろうか……。





「ただ。自分自身に対して、忸怩たる思いはある」





 ダリオは、吐き捨てるように言った。





「どうしてもっと早く、騎士団を辞めさせなかったのか。僕がそうさせたがったのは、単なるエゴだけじゃない。男だらけの環境にいて、こういう被害に遭うことを恐れたからなんだ」





「ダリオ……」





「いや、止そう。今こんな話をしても、君を追い詰めるだけだな」





 ダリオは立ち上がりかけたが、ナーディアは慌てた。





「ちょっ、ちょっと待って! 私、帰らないと……」





「医者は、数日安静にと言っていた。それでは、仕事は無理だ。ザウリ様には、僕から連絡しておくから、しばらくはここで過ごすといい……。モンテッラ邸へは、帰りたくないだろう?」





 言い当てられて、ナーディアはドキリとした。





「モンテッラ家の馬車を使わずに、辻馬車を使おうとした。……それから、その頬……。大体、何があったのか推察できるよ」





 ロベルトとフローラ、二人にぶたれて腫れ上がった頬に、ダリオはそっと触れた。





「遠慮せず、ゆっくり休め。……まあ、僕としては、永久にここで過ごして欲しいが」





 クスリと笑うと、ダリオは灯りを消し、部屋を出て行った。
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