最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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 マリーノは、ナーディアにつかみかかっている三人に注意するでもなく、無言でつかつかと近付いて来た。冷ややかに、ナーディアを見すえる。





「この前、モンテッラ邸へ行った。お前の怪我を見舞うつもりだったんだ。そうしたら、屋敷内が大騒動になっていたから驚いた。聞けば、フローラ嬢が睡眠薬を過剰摂取したと言うじゃないか。幸い、お命に別状はなかったとのことだが……。その理由を知って、俺は、ナーディア、お前を心底軽蔑した」





 吐き捨てるように、マリーノが言う。





「お前がロレンツォを寝取ったと。それが原因で、二人は婚約解消。フローラ嬢は、自らお命を絶とうとするほど追い詰められたんだ!」





 騎士団内に噂が広まったのは、マリーノのせいだったのか、とナーディアは唇を噛んだ。確かに、責められても仕方ない。だが、言いふらさなくてもよかったではないか……。





「フローラ嬢は、泣いて俺に訴えられたんだ。そんなにナーディアがロレンツォ様をお慕いしているなら、一言私に相談してくれればよかったのに、と。相手があの子なら、譲っていたわ、そう仰っていた」





 そんな理屈が通るはずがないではないか、とナーディアは思った。姉の婚約者、それも姉が惚れ抜いている男を譲ってくれなど、言えるわけがない。そして、もしも頼んだとして、姉は果たして譲ったか……? 答は、どう考えても否だ。





 だが、周囲の同僚らは、心底フローラに同情した様子だった。卑怯な女だ、とヒソヒソ囁いている。





「おい、ナーディア」





 そこへ、ザウリの声が響いた。さすがに、男三人がナーディアから手を離す。一瞬安堵したナーディアだったが、ザウリの表情を見て、自分を助けに来たわけではないことを悟った。今まで起きていたことを、察していないわけではなかろうに、彼は三人を注意するでもなかった。じろりとナーディアを見て、告げる。





「お前とロレンツォは、風紀を乱した。よって二名とも、退団処分とする」
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