最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

7

「何ですと!?」





 ナーディアは、ザウリに食ってかかっていた。ザウリが、こともなげに告げる。





「オルランド殿下の警護という職務の最中に、騎士同士で淫らな振る舞いに及んだ。それだけでも許しがたいのに、騎士団内の秩序は今、お前らのせいで乱れまくっている。当然だろう」





 マリーノが、フイと視線をそらす。ナーディアは察知した。彼は、これが目的で噂を振りまいたのだ……。





「明日には荷物をまとめて寮を出るように」





 短く言い捨てて、ザウリが背を向ける。その瞬間、彼の横顔に浮かんだ安堵の表情を、ナーディアは見逃さなかった。





「王宮近衛騎士団のナンバー1とナンバー2がそろって欠ければ、さぞやご安心でございましょう、ザウリ団長!」





「何い?」





 ザウリが振り返る。ナーディアは、彼を鋭く見すえた。





「あなたより優れた剣士がいなければ、団長の座は守り通せますねと、そう申しております」





 僅かだが、ザウリの顔に動揺が走った。ナーディアは、声を張り上げた。





「ザウリ、剣を持て! どちらが優れた剣の遣い手か、皆に見せてくれよう!」





 姑息な男め、とナーディアはザウリをにらみつけた。ロベルトを退団に追い込んだ恨みは、こんなことでは晴らせない。だが、こうでもしなければ腹の虫が治まらなかった。





「団長に向かって、何と失礼な……」





 誰かが、非難の声を上げる。ナーディアは、即座に言い返した。





「たった今、退団処分と仰ったではないか。もはやザウリは、私にとって団長ではない!」





 王立騎士団の人事は、国王権限とはいえ、王はほとんど介入しない。王立騎士団長が実質的決定権を持っているのが、現状である。先ほどのザウリの言葉で、ナーディアとロレンツォの退団は、ほぼ決定したも同然だった。





「早く、剣を持て!」





 そう叫んだナーディアの肩に、不意に手が置かれた。





「ナーディア。お前の剣は、こんな雑魚を斬るためにあるのではない。こいつは、お前が相手にする価値のある剣士じゃない」





 振り返った先にいたのは、ロレンツォだった。
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