最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
第三章 姉の婚約

1

 二日後の夜、ナーディアら王宮近衛騎士団のメンバーは、王宮の大広間にいた。華麗に着飾って歓談を楽しむ男女らの中で、ナーディアたちだけが、ピリピリと緊張している。





 それもそのはず、今夜の舞踏会には、国王マルコ四世をはじめとする王族たちだけでなく、外国からの要人が参加しているのだ。隣国イリヴェンの外交官、ミラネット卿である。





『万が一にも、粗相のないように。わかっているな?』



 



 団長のザウリは、ナーディアたちにそれは厳しく言い聞かせたものである。というのも、ラクサンドとイリヴェンは、微妙な関係にあるのだ。





 元々イリヴェンは、ラクサンド王国の一部だった。数十年前に独立を果たしたものの、小国イリヴェンの基盤はいまだ強いとはいえず、何かにつけ周囲の国に攻め込まれている。その目的は、イリヴェンで豊富に採掘される石炭だ。





 イリヴェンは、たびたびラクサンドに援軍を要請し、ラクサンドはそれに応えて派遣してきた。現国王・マルコ四世もその方針を継続し、そのせいで彼は、年中国を空けている。だがイリヴェン国内からは、ラクサンドに干渉され続けることに、反発する声も上がり始めている。石炭の重要な輸入元ということもあり、イリヴェンとの関係には、それは気を遣わねばならないのだった。





 ナーディアは、マルコ四世と歓談しているミラネット卿とその側近たちを、さりげなく観察した。ふと、ロレンツォの言葉が蘇る。





 ――警護という職務を全うすることにエネルギーを注いだ方がよいのではありませんか?





 マリーノではないが、本当に言われなくてもわかっていると言いたい。ナーディアは、会場内のロレンツォをキッとにらみつけた。





 ロレンツォは今夜、ちゃっかり出席者側として、正装で参加しているのだ。黒のジュストコールと丈長のジレは、体格の良い彼によく似合っていた。立ち振る舞いは堂々としており、最近王都に出て来たとは思えないほど、マナーも完璧だ。加えて顔立ちが整っている、とくれば、否が応でも人目を引く。そこここから、若い令嬢たちがロレンツォに熱い視線を送っているのに、ナーディアは気付いていた。
< 17 / 200 >

この作品をシェア

pagetop