最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

2

「お嬢さん、一曲踊っていただけませんか?」





 不意に、からかうような声が聞こえた。振り向いた先には、案の定オルランドの姿があり、ナーディアはため息をついた。





(あるじ)の顔を見たとたん、ため息ってひどくないか?」



「ため息の一つもつきたくなります。殿下、今夜の目的はわかってらっしゃいますよね?」





 つい声を荒らげてしまうのを抑えられない。こう見えて、公式の場はそつなくこなすオルランドではあるが、護衛をからかいに来ている場合ではないだろう。本気で相手探しをする気があるのか、と言いたくなる。イリヴェンの要人歓待もだが、この舞踏会は、それが大きな目的だというのに……。でなければ、自分たちは何のために、ピリピリと神経を尖らせて警護しているのだか。





「あー、あの令嬢たちねえ……」



 



 婚約者候補らのことだろう。オルランドは、気乗りなさげに顔をしかめた。





「誰も、少しずつ足りないんだよなあ」



「……完璧な方々ではございませんか?」





 ナーディアは、首をひねった。王太子のお相手候補となるだけあって、家柄はもちろん、容姿も人となりも一流の令嬢ばかりだというのに。するとオルランドは、大きくかぶりを振った。





「いや、足りないね。あと五センチ……、いやコルセットでの矯正分を考えたら、七センチ? 」





 ここが舞踏会会場で、相手が王太子でなければ、派手にぶっ飛ばしていたことだろう。ナーディアは、キッとオルランドをにらみつけた。





「殿下。お願いですから、胸部以外もご覧になってください。あなたは、胸と結婚するわけじゃないんですよ!?」



「最重要事項なのに」





 オルランドが、悲壮な顔をする。ナーディアは、さらにオクターブを上げた。





「殿下!!」



「わかった、わかった。それより、ロレンツォとかいう新人のことだけど」



「……彼が何か?」





 誤魔化されたのはわかっているが、ロレンツォの名前に、ナーディアはつい反応してしまった。





「気になるのか? 今、見つめてたろ」





 彼を見ていたことに気付かれていたのか、とナーディアはドキリとした。





「変な仰り方をなさらないでください。私たちは仕事で来ているのに、一人だけ優雅なものだな、と思っていただけです」



「何だ。ナーディアに似合いの男だと思ったんだがな」





 オルランドが、肩をすくめる。ナーディアは、声を尖らせた。





「どこが、似合いなんです?」



「強い男がいいんだろ? 聞けば、相当腕の立つ奴らしいから……。ああ、でも手合わせではナーディアに負けたんだっけ? なら、ダメだな」





 負かした、とは言いづらいものがあるが。ナーディアの複雑な思いに気付いているのかいないのか、オルランドはのんびり喋っている。





「それに、ロレンツォはお前の姉上に本気のようだからな。なかなか上手くいかないものだ」



「……そうなのですか?」





 確かに、エスコートは諦めてもダンスには誘う、と宣言していたが……。
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