最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
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「お嬢さん、一曲踊っていただけませんか?」
不意に、からかうような声が聞こえた。振り向いた先には、案の定オルランドの姿があり、ナーディアはため息をついた。
「主の顔を見たとたん、ため息ってひどくないか?」
「ため息の一つもつきたくなります。殿下、今夜の目的はわかってらっしゃいますよね?」
つい声を荒らげてしまうのを抑えられない。こう見えて、公式の場はそつなくこなすオルランドではあるが、護衛をからかいに来ている場合ではないだろう。本気で相手探しをする気があるのか、と言いたくなる。イリヴェンの要人歓待もだが、この舞踏会は、それが大きな目的だというのに……。でなければ、自分たちは何のために、ピリピリと神経を尖らせて警護しているのだか。
「あー、あの令嬢たちねえ……」
婚約者候補らのことだろう。オルランドは、気乗りなさげに顔をしかめた。
「誰も、少しずつ足りないんだよなあ」
「……完璧な方々ではございませんか?」
ナーディアは、首をひねった。王太子のお相手候補となるだけあって、家柄はもちろん、容姿も人となりも一流の令嬢ばかりだというのに。するとオルランドは、大きくかぶりを振った。
「いや、足りないね。あと五センチ……、いやコルセットでの矯正分を考えたら、七センチ? 」
ここが舞踏会会場で、相手が王太子でなければ、派手にぶっ飛ばしていたことだろう。ナーディアは、キッとオルランドをにらみつけた。
「殿下。お願いですから、胸部以外もご覧になってください。あなたは、胸と結婚するわけじゃないんですよ!?」
「最重要事項なのに」
オルランドが、悲壮な顔をする。ナーディアは、さらにオクターブを上げた。
「殿下!!」
「わかった、わかった。それより、ロレンツォとかいう新人のことだけど」
「……彼が何か?」
誤魔化されたのはわかっているが、ロレンツォの名前に、ナーディアはつい反応してしまった。
「気になるのか? 今、見つめてたろ」
彼を見ていたことに気付かれていたのか、とナーディアはドキリとした。
「変な仰り方をなさらないでください。私たちは仕事で来ているのに、一人だけ優雅なものだな、と思っていただけです」
「何だ。ナーディアに似合いの男だと思ったんだがな」
オルランドが、肩をすくめる。ナーディアは、声を尖らせた。
「どこが、似合いなんです?」
「強い男がいいんだろ? 聞けば、相当腕の立つ奴らしいから……。ああ、でも手合わせではナーディアに負けたんだっけ? なら、ダメだな」
負かした、とは言いづらいものがあるが。ナーディアの複雑な思いに気付いているのかいないのか、オルランドはのんびり喋っている。
「それに、ロレンツォはお前の姉上に本気のようだからな。なかなか上手くいかないものだ」
「……そうなのですか?」
確かに、エスコートは諦めてもダンスには誘う、と宣言していたが……。
不意に、からかうような声が聞こえた。振り向いた先には、案の定オルランドの姿があり、ナーディアはため息をついた。
「主の顔を見たとたん、ため息ってひどくないか?」
「ため息の一つもつきたくなります。殿下、今夜の目的はわかってらっしゃいますよね?」
つい声を荒らげてしまうのを抑えられない。こう見えて、公式の場はそつなくこなすオルランドではあるが、護衛をからかいに来ている場合ではないだろう。本気で相手探しをする気があるのか、と言いたくなる。イリヴェンの要人歓待もだが、この舞踏会は、それが大きな目的だというのに……。でなければ、自分たちは何のために、ピリピリと神経を尖らせて警護しているのだか。
「あー、あの令嬢たちねえ……」
婚約者候補らのことだろう。オルランドは、気乗りなさげに顔をしかめた。
「誰も、少しずつ足りないんだよなあ」
「……完璧な方々ではございませんか?」
ナーディアは、首をひねった。王太子のお相手候補となるだけあって、家柄はもちろん、容姿も人となりも一流の令嬢ばかりだというのに。するとオルランドは、大きくかぶりを振った。
「いや、足りないね。あと五センチ……、いやコルセットでの矯正分を考えたら、七センチ? 」
ここが舞踏会会場で、相手が王太子でなければ、派手にぶっ飛ばしていたことだろう。ナーディアは、キッとオルランドをにらみつけた。
「殿下。お願いですから、胸部以外もご覧になってください。あなたは、胸と結婚するわけじゃないんですよ!?」
「最重要事項なのに」
オルランドが、悲壮な顔をする。ナーディアは、さらにオクターブを上げた。
「殿下!!」
「わかった、わかった。それより、ロレンツォとかいう新人のことだけど」
「……彼が何か?」
誤魔化されたのはわかっているが、ロレンツォの名前に、ナーディアはつい反応してしまった。
「気になるのか? 今、見つめてたろ」
彼を見ていたことに気付かれていたのか、とナーディアはドキリとした。
「変な仰り方をなさらないでください。私たちは仕事で来ているのに、一人だけ優雅なものだな、と思っていただけです」
「何だ。ナーディアに似合いの男だと思ったんだがな」
オルランドが、肩をすくめる。ナーディアは、声を尖らせた。
「どこが、似合いなんです?」
「強い男がいいんだろ? 聞けば、相当腕の立つ奴らしいから……。ああ、でも手合わせではナーディアに負けたんだっけ? なら、ダメだな」
負かした、とは言いづらいものがあるが。ナーディアの複雑な思いに気付いているのかいないのか、オルランドはのんびり喋っている。
「それに、ロレンツォはお前の姉上に本気のようだからな。なかなか上手くいかないものだ」
「……そうなのですか?」
確かに、エスコートは諦めてもダンスには誘う、と宣言していたが……。