最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

8

「ロレンツォ……!?」





 ザウリは、一瞬気色ばんだものの、すぐににやりとした。





「ちょうどよいところへ来た。今、お前とナーディアには、退団処分を宣告していたところだ」





「ほう……?」





 それを聞いても、ロレンツォはなぜか、表情を変えるでもなかった。むしろ、余裕の笑みすら浮かべている。





「ザウリ団長は、よほど団長の座を奪われるのが怖いとお見受けする」





「何!?」





「そう思われたくなければ、退団処分などと、軽々しく口になさらないことですな。ナーディアを退団させれば、俺は五年前、あなたが団長に昇格された経緯を、皆につまびらかに説明しますが」





 ナーディアは、思わずロレンツォの顔を見ていた。周囲の騎士らも、妙な顔をしている。『どういうことだ』『ナーディアもロレンツォも同じことを言ったぞ』という囁きも聞こえ始めた。





「ちなみに、証人もおりまして……」



「わ、わかった!」





 ザウリは大慌てで、ロレンツォの言葉を遮った。





「いや、先ほどは軽率だった。寮内がざわついているので、焦ったんだ。二人の退団は、考え直す……。いや、取り消す。以上!」





 早口でまくし立てると、ザウリはさっさと去って行った。マリーノが、ロレンツォに詰め寄る。





「おい。団長は丸め込んだか知らないが、俺たちはお前らを認めたわけじゃないぞ。寮内でお盛んな真似をされちゃ、迷惑なんだよ」





 ロレンツォは、一笑に付した。





「は! そんなに、羨ましいか」





「お前……!」





「マリーノ。お前、見苦しいんだよ」





 ロレンツォの瞳は、打って変わって激しい怒りに燃えていた。





「俺がナーディアと寝たのが、そんなに妬ましいか? 何年も側にいて、押し倒す勇気もなかったくせに! ナーディアを抱きたいなら、抱かせてくださいと平伏したらどうだ? どうせ、蹴散らかされるだろうがな!」





「この……!」





 殴りかかろうとするマリーノを、ロレンツォはするりとかわした。





「お前ほど器が小さい男も、見たことがないな。嫉妬に狂って、挙げ句はフローラに唆されて、俺たち二人を追い出そうってか? どうせ、『二人が同じ騎士団にいるのを見続けるのは辛いわ』とでも泣かれたんだろうが。この前も言ったが、お前は正真正銘の馬鹿者だ!」 





 マリーノが、ぐっと詰まる。図星か、とナーディアは思った。
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