最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「し……、しかしだな」





 こめかみを引き攣らせながらも、マリーノはどうにか言い返した。





「ナーディアが、フローラ嬢の婚約者であるお前と寝たのは事実だろう。淫売には、間違いない……」





 次の瞬間、ナーディアは目を疑った。ロレンツォの拳が、マリーノのみぞおちに命中したのだ。





「今度ナーディアを貶めたら、命はないものと思え」





 地を這うような低い声だった。マリーノは、かろうじて倒れ込みはしなかったものの、その体はふらついていた。王宮近衛騎士団の中でも群を抜いた鍛えっぷりの彼が、ここまでダメージを受けるとは、相当の衝撃だったに違いなかった。





 ロレンツォは、改めて周囲を見回した。





「ナーディアの名誉のために、言っておく。俺は、フローラ嬢と婚約していながら、ナーディアに惚れた。だがナーディアは、いつも姉と俺のことを応援していた。神に誓って、俺を誘うような真似はしていない。……そして、コドレラでのことだが」





 皆が、いちだんと注目するのがわかった。





「確かに俺は、ナーディアを抱いた。でも、それは合意じゃない。俺が手込めにした」





 全員が、息を呑む。それはナーディアも同様だった。





「いや、ナーディアを手込めにとか、できるか……?」





 一人が呟く。反論したというよりは、純粋に疑問を抱いたようだったが、ロレンツォは目をつり上げた。その男の元へ近付き、襟首をつかむ。





「お前の弱っちい力では、できないだろうがな!」



「……すみません!」





 発言した男が、縮み上がる。ロレンツォは、乱暴に彼を放すと、再び周囲を見回した。





「酒に薬を仕込んだ。ナーディアの体の自由を奪って、俺が無理やり抱いたんだ。どうだ、これで納得したか!」





 ナーディアは、言葉を失っていた。薬物使用は、場合によっては極刑にも値する、重罪だというのに……。だが、この場に密告する者はいないだろうと思われた。皆、ロレンツォの迫力に恐れをなしているのは明白だった。





「来てくれ」





 ロレンツォが、ナーディアの手を引っ張る。自室に連れて行くのは明らかだったが、さすがに誰一人非難はしなかった。
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