最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

3

「ああ。ま、フローラ嬢にとってはいい話じゃないか? ロレンツォは、なかなか優良物件だと思うぞ」



「そうでしょうか!?」





 オルランドが思いがけないことを言うので、ナーディアはつい気色ばんだ。





「何と言っても、我が国誇る王宮近衛騎士団のメンバーじゃないか。そりゃ、妾の子かもしれんが、何が何でもフェリーニ侯爵夫人になりたいのでなければ、悪い話ではなかろう?」





 フェリーニ侯爵家の跡継ぎは、長男ダリオである。だが王宮近衛騎士団といえば、ラクサンド王国では名誉ある存在な上、破格の好待遇である。オルランドの言う通り、ロレンツォは結婚相手として十分魅力的だろう。 





「だから、ほら、目をギラつかせている女がたくさん」





 オルランドは、ロレンツォの方をチラと見やった。彼は今夜、父フェリーニ侯爵、兄ダリオと共に参加している。彼らの周囲には、妙齢の娘を連れた貴族らが、次々と集まって来ていた。確かにダリオだけでなく、ロレンツォ目当ても多い様子だ。いや、むしろ後者の方が上回るかもしれない。





 ロレンツォは、彼らと礼儀正しく歓談していた。自分やマリーノに対する生意気な態度とは大違いで、何だか腹立たしい。するとオルランドは、さらにとんでもない台詞を放った。





「でもな。ロレンツォは、心に決めた女性がいると、公言しているそうだ。だから彼女たちも、撃沈というところだな」



「……それが、私の姉だと?」



「らしいね」





 あっけらかんと、オルランドが答える。





「『ラクサンドのネモフィラ』が人妻になるのは口惜しいが、俺も諦めるとするかな。ロレンツォはあの通り、男前だから。まっ、俺ほどじゃないが……」



「勝手に決めないでください! 決めるのはフローラです」





 オルランドの軽口を、ナーディアは激しい口調でさえぎった。何だか、無性にイライラする。





「大体、いつまで油を売ってるんですか。さっさと、お眼鏡に適った『胸部』をお持ちの女性をお探しください!」





 きつくにらめば、オルランドはさすがに去って行った。やれやれと一息ついていると、向こうからよく知る男女がやって来た。兄コルラードと、姉フローラである。





「ナーディア、久しぶりに会えて嬉しいわ」





 フローラが近寄って来るだけで、会場内の男性陣の眼差しは、いっせいにこちらに向けられた。
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