最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

8

 エレオノーラ王女が加わってから、国王側はあっという間に追い詰められていった。元々、ザウリがロベルトを狙ったことで混乱状態にあった上、王女の率いる軍は、圧倒的に強かったのである。





(同じ女性で、こんなにお強い方がいらしたとは)





 ナーディアは、王女に憧れと敬意の念を抱いた。がぜん、やる気も出て来る。王立騎士団員ら相手に、猛然と戦っていると、隣で戦っているロレンツォが不意に叫んだ。





「ナーディア! お前、俺の手紙は読んだか?」



「読んでないよ!」





 読む前にこのクーデターが勃発した、ということもあるが、終わってから読んだ方がいい気がしたのだ。





「ガキの頃の思い出を綴った。ここ最近、思い出されて仕方ないんだ。お前と、大会で戦った時のこと……」





 なぜそんなことを言う、とナーディアは顔をしかめた。何だか不吉ではないか。





(いや、そんなことはない。明らかに、こちらが優勢ではないか。ロレンツォに何かある、などということはない……)





「ごめんな」





 ロレンツォが、ぽつりと言う。





「お前と、手合わせしてやれなくて……」



「おい! そんな縁起でもない……」





 ロレンツォと目が合う。その瞬間、彼のエメラルドグリーンの瞳は、光を失った。まるでスローモーションのように、ロレンツォが馬から落ちて行く。ナーディアには、目の前の光景が信じられなかった。ロレンツォの腹には、矢が刺さっている。そこからは、鮮血が流れ出していた。





「ロレンツォ!!」





 ナーディアは、絶叫していた。予感がして見回せば、遙か遠方にいるマリーノと目が合った。弓を携えている。彼だ、と確信した。





(マリーノ、許すものか……!)





 だが今は、ロレンツォの手当てが先だ。馬から飛び降りようとしたナーディアだったが、その時、父ロベルトが突進してくるのが見えた。オルランドを狙っている。





「国王陛下の御為! オルランド殿下、失礼ながら、お命頂戴申す!」





「その刃、私が受けて立つ!」





 ナーディアは、オルランドを庇うように、彼の前に躍り出た。本当は、今すぐロレンツォの元へ駆け寄りたい。マリーノに仇討ちしたい。だが……、自分の責務は、オルランドを守ることだ。





 卑怯であることは、百も承知していた。ナーディアは、古傷を持つ父の脚めがけて斬りかかった。ロベルトが、バランスを失って馬から転がり落ちて行く。王立騎士団員らが、息を呑むのがわかった。





 国王側が降伏したのは、わずか一時間後のことだった。
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