最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

2

 その日、ナーディアとジャンニは、モンテッラ邸へと向かっていた。辻馬車に揺られながら、ジャンニが嬉しそうに言う。





「このベルトが、俺の命を救ってくれたんだな」





 そう言って彼は、ナーディアが贈ったベルトを広げた。マリーノの放った矢は、ベルトの金具に当たったのだ。そのおかげで急所は外れ、ジャンニは一命を取り留めたのだった。





「けど、血まみれになっちまったな。新しいの、買ってあげるよ」





 ナーディアはそう言ったのだが、ジャンニはこれを着け続けると言い張った。





「ナーディアからの、初めての贈り物だからな……。黙っていたけれど、これを見るたびにワスレナグサを思い出していた。お前に贈った花だからな」





「……実は、それをイメージしたんだ。私も、黙っていたけれど」





 ナーディアは、懐から押し花のカードを取り出した。ジャンニが目を見張る。





「まさか、それ……」



「うん。ずっと大切にしていた」





 押し花にするのは、実際大変な苦労だった。手先の不器用なナーディアは、細かい作業が苦手なのだ。珍しく頑張ったのは……、やはり、ジャンニが特別な存在だったからだろう。 





「ナーディア……」





 感極まったように、ジャンニが抱き寄せてくる。止めろ、とナーディアは押しのけた。





「傷が開いたらどうする。それに、今日は大切な日なんだ。シャキッとしていけ」





 今日、ジャンニはロベルトに、ナーディアとの結婚の許しを得に行くのだ。もちろん、オルランドは了承済みである。王立騎士団が解体した以上、もう王妃との過去の約束を持ち出すような輩はいないのだが、それでも不安がるナーディアに、オルランドはこう言った。





『国王と王妃、どちらが位が高い? 国王が許すと言ったんだ。誰も文句は言うまい』





 あとは、ロベルトがどう答えるかだ。ジャンニの横顔には、珍しく緊張が走っていた。
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