最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる
3
ロベルトは、寝室のベッドの上で二人を出迎えた。ナーディアが、脚に傷を負わせたせいで、動ける状態ではないのだという。
彼と会うと、ジャンニは真っ先に謝罪した。
「名を偽り、愛のない求婚をして、申し訳ございませんでした。実は……」
ジャンニは、かつてフェリーニ侯爵から見せられた書類と、ダリオが発見した書類を、並べて見せた。二つのバローネ伯爵の日記の筆跡は、一致している。チェーザレに賛同するという部分のみを、フェリーニ侯爵が切り取って隠し持っていたに違いなかった。
それらを読み終えると、ロベルトは深刻な面持ちで頷いた。
「ロレンツォ殿……、いや、ジャンニ殿。君には何の責任もない。父を処刑され、国を追われた八歳の少年が、唯一助けてくれた大人にすがったとして、責めることができようか。悪いのは、それにつけ込んで洗脳した、マクシミリアーノだ……」
「お許しいただけるのですか?」
ジャンニが、目を見張る。もちろんだ、とロベルトは頷いた。
「それでも君は、戦場で私を助けてくれたではないか。君には、感謝してもしきれない……」
そう言ってロベルトは、サイドテーブルから何やら書類を出してきた。
「ジャンニ殿。君にさらなるショックを与えるのは承知で言うが、これは伝えておかねばなるまい……。実は、イヴァノ・ディ・バローネ伯爵がチェーザレ一派だという証拠を私に流したのは、他ならぬマクシミリアーノなのだ」
「何ですと!?」
ジャンニとナーディアは、そろって声を上げていた。ロベルトが、沈痛の表情を浮かべる。
「これらが、その証拠だ……。イヴァノ含め、数人分ある。私はそれらを鵜呑みにすることなく、徹底的に調べた。そして、愕然としたよ。そのほとんどは、ねつ造だったのだ。マクシミリアーノにとって不都合な、ライバル的存在の人物ばかりだった。マクシミリアーノはあのクーデターを、そして鎮圧リーダーの私を利用して、出世を目論んだのだ」
『父は、自分の益になる人間としか付き合わない』というダリオの言葉が蘇る。確かにこれまでフェリーニ侯爵は、宮廷で絶大な発言権を持っていた。恐らくは、陰で汚い裏工作ばかりしてきたのだろう。
「マクシミリアーノがそんな人間だったことに愕然とした私は、彼から距離を置くことにした。もちろん、ねつ造された証拠は黙殺した。だが、マクシミリアーノはそれを逆恨みしたのだ。クーデター後、私が陞爵されたことで、恨みはさらに募ったようだ。出し抜かれたように思ったのだろう……」
父とフェリーニ侯爵が不仲になった原因は、それが理由だったのか、とナーディアは意外な思いだった。だが、と言いづらそうにロベルトが続ける。
「イヴァノだけは、本当にクーデターに加わっていたのだ。私としては、制裁するしかなかった……」
「お立場上、当然です。あなたを責めるつもりはありません」
ジャンニは、静かに言った。
彼と会うと、ジャンニは真っ先に謝罪した。
「名を偽り、愛のない求婚をして、申し訳ございませんでした。実は……」
ジャンニは、かつてフェリーニ侯爵から見せられた書類と、ダリオが発見した書類を、並べて見せた。二つのバローネ伯爵の日記の筆跡は、一致している。チェーザレに賛同するという部分のみを、フェリーニ侯爵が切り取って隠し持っていたに違いなかった。
それらを読み終えると、ロベルトは深刻な面持ちで頷いた。
「ロレンツォ殿……、いや、ジャンニ殿。君には何の責任もない。父を処刑され、国を追われた八歳の少年が、唯一助けてくれた大人にすがったとして、責めることができようか。悪いのは、それにつけ込んで洗脳した、マクシミリアーノだ……」
「お許しいただけるのですか?」
ジャンニが、目を見張る。もちろんだ、とロベルトは頷いた。
「それでも君は、戦場で私を助けてくれたではないか。君には、感謝してもしきれない……」
そう言ってロベルトは、サイドテーブルから何やら書類を出してきた。
「ジャンニ殿。君にさらなるショックを与えるのは承知で言うが、これは伝えておかねばなるまい……。実は、イヴァノ・ディ・バローネ伯爵がチェーザレ一派だという証拠を私に流したのは、他ならぬマクシミリアーノなのだ」
「何ですと!?」
ジャンニとナーディアは、そろって声を上げていた。ロベルトが、沈痛の表情を浮かべる。
「これらが、その証拠だ……。イヴァノ含め、数人分ある。私はそれらを鵜呑みにすることなく、徹底的に調べた。そして、愕然としたよ。そのほとんどは、ねつ造だったのだ。マクシミリアーノにとって不都合な、ライバル的存在の人物ばかりだった。マクシミリアーノはあのクーデターを、そして鎮圧リーダーの私を利用して、出世を目論んだのだ」
『父は、自分の益になる人間としか付き合わない』というダリオの言葉が蘇る。確かにこれまでフェリーニ侯爵は、宮廷で絶大な発言権を持っていた。恐らくは、陰で汚い裏工作ばかりしてきたのだろう。
「マクシミリアーノがそんな人間だったことに愕然とした私は、彼から距離を置くことにした。もちろん、ねつ造された証拠は黙殺した。だが、マクシミリアーノはそれを逆恨みしたのだ。クーデター後、私が陞爵されたことで、恨みはさらに募ったようだ。出し抜かれたように思ったのだろう……」
父とフェリーニ侯爵が不仲になった原因は、それが理由だったのか、とナーディアは意外な思いだった。だが、と言いづらそうにロベルトが続ける。
「イヴァノだけは、本当にクーデターに加わっていたのだ。私としては、制裁するしかなかった……」
「お立場上、当然です。あなたを責めるつもりはありません」
ジャンニは、静かに言った。