最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

5

「お父様。お怪我の具合は大丈夫でございますか?」





 ナーディアは、父の脚を案じた。





「大変、申し訳ございませんでした。古傷を狙うなど、卑怯な真似をいたしました……」





 ロベルトは、穏やかにかぶりを振った。





「怒ってなどいるものか。お前は、主君を守るという、騎士として当然の責務を果たしたまでだ。むしろ、誇らしい」





 そして、と彼は続けた。





「謝らなければいけないのは、私の方だ。カッとなって、ろくに話も聞かずにお前をぶった。あの後すぐにフェリーニ邸を訪れたのだが、ダリオ殿に通してもらえなんだ。そして、聞かされた。フローラが、お前のネックレスを引きちぎったとか」





 ダリオは喋ったのか、とナーディアは驚いた。いや、それよりも知っていたのか。確かにあの破壊されたネックレスは、フェリーニ邸にずっと置いたままだが……。





「どういうことだ、ナーディア?」





 ジャンニが、険しい顔をする。ナーディアは、仕方なく打ち明けた。





「ごめん。ずっと言えなくて。しかも、慌ててフェリーニ邸を飛び出したから、置きっぱなしになっていて。修理しようと思っていた矢先に、あのクーデターだったから……」





「ネックレスくらい、何十でも何百でも買ってやる。だが、それは聞き捨てならないな」





 ジャンニは、再びロベルトの方を向き直った。





「ロベルト様。俺は確かに、復讐のためにフローラ嬢と婚約しました。それでいて、ナーディア嬢を愛するというひどい仕打ちをしました。ですが、フローラ嬢について、この点は知っていただきたいのです……」





 止めようと思ったが、ジャンニはあっという間に喋ってしまった。フローラがナーディアに、呪いのお守りを託したこと。マリーノをたき付け、ナーディアを退団させようと企んだこと。実際、騎士団の寮内で嫌がらせがあったこと……。ロベルトは、蒼白な顔で聞いていた。





「ナーディア。本当にすまなんだ。そこまでの仕打ちを受けていたとは、つゆ知らず……。いや、フローラとマリーノ殿がやけに親しいことは、気になっていた。再三、注意はしていたのだが……」





 ロベルトは、ぽつりと呟いた。





「私は、子育てに失敗したのだな。長男も長女も……。この怪我も、爵位を失うことも、その報いかもしれん。あれほど跡継ぎ育成のことを考えてきたのに、譲るものがなくなるとは、皮肉なものよ」
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