最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

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「近いのだから、もっと実家にも顔を出して欲しいわ……。それにしても、せっかくの舞踏会で踊れないなんて、残念ね」





 フローラは優しく微笑んだが、それを聞いていたコルラードは、フンと鼻を鳴らした。





「ナーディアにはダンスよりも、剣や槍を振り回している方がお似合いさ。第一、お前に似合うドレスを捜すのは、至難の業だろう。そのごつい体格に合うデザインを考える仕立屋が、気の毒というものだ」





 猛将ロベルト・ディ・モンテッラの息子でありながら運痴という事実は、コルラードの性格を大きくねじ曲げたのである。鬱憤の矛先は、父から抜群の運動能力を譲り受けたナーディアに向かった。兄とは、顔を合わせるたびに口論になるというのが現状である。寮住まいを口実に、実家へ寄りつかないのは、そのせいだ。





「兄様。久々に兄妹で会ったというのに、それはあんまりですわ」





 フローラが、眉をひそめる。





「大体兄様は、女性に対する態度をもう少し改めるべきです。ナーディアだけでなく、他の令嬢たちにも。そうなさらないと、今夜もお相手は見つかりませんわよ?」





 僻みと、侯爵家の令息であるというプライドが妙な風に相互作用して、コルラードは女性に尊大な態度しか取れないのである。当然、モテるはずはない。





(愚かというか、要領が悪いというか……)





 ちょっと言動に気を付ければいいだけのことなのに。何せコルラードは、外見は悪くないのだから。彼はフローラ、ナーディア同様、漆黒の髪とブルーの瞳を備えているのだ。顔立ちだって、整っている。





「うるさい。お前こそ、とっとと相手を見つけろ。うちでは、行き遅れの妹を二人も養う余裕はないからな!」





 痛いところを突かれたと思ったのか、コルラードがフローラに向かってわめく。こういう所は幼い頃から変わらない、とナーディアは嘆息した。駄々っ子のようなその表情は、剣術大会に出たくないとごねた時のそれと全く同じだ。





(ま、ごねてくださったおかげで、ジャンニと出会えたのだけれど……)





 ふと脳裏にロレンツォの顔が浮かび、ナーディアはそんな自分にハッとした。何を考えているのか。たまたま目と髪の色が同じというだけではないか。あんな腹立たしい男を連想するなんて、ジャンニに申し訳ない。





「私は王宮近衛騎士団のお給料で食べていけますから、兄様に養っていただく必要はございません。そして、フローラ姉様のご結婚がまだ決まらないのは、ただ慎重になっておられるだけのこと。姉様に、お申し込みが山ほどあるのはご存じでしょう? 兄様が女性からお断りされる件数と、どちらが多いでしょうか」





 コルラードの顔が、カッと紅潮する。それに構わず、ナーディアはさらに続けた。





「将来を案じられるべきは、私たちではなくコルラード兄様では? お父様亡き後、お一人でモンテッラ領をちゃんと治められるのですか?」
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