最強女騎士は、姉の婚約者に蕩かされる

7

「ロベルト……。お前は、悪運の強い奴だ」





 フェリーニ侯爵は、ロベルトをにらみつけた。





「ザウリも、あの役立たずが! 始末に失敗しおって!」





 戦場でザウリがロベルトを狙ったのは、彼の指図だったのか、とナーディアは驚いた。





「そして……。ジャンニ! 恩を仇で返しおって! 何のために、あの憎らしいイヴァノの子を育ててやったと思っている!」





 侯爵は、ヒステリックにわめき立てた。





「イヴァノ……。この私が、フェリーニ侯爵夫人として迎えようと言ってやったのに、エメリアはあの男を選びおった! 人柄に惚れたと……。コドレラに匿ってやってからでも、エメリアは一度として、私の思う通りにはならなんだ! イヴァノに、操を守り通して……」





 ジャンニが、目を見張る。ナーディアも同様だった。エメリアは、侯爵の愛人ではなかったのか。あくまでも、ジャンニの父親を愛し続けていたのか……。





「死ね!」





 ナーディアは、ぎょっとした。フェリーニ侯爵は、背後に隠し持っていた猟銃を取り出したのだ。あっという間に、ロベルトめがけて一発目が放たれる。





「お父様!」





 ぞっとしたナーディアだったが、幸いにも弾はロベルトのベッド脇をかすめた。どうやら侯爵は、猟銃の扱いに不慣れらしい。彼が二発目を撃つ前に、ナーディアは侯爵の足元にタックルした。不意を突かれてよろめいた侯爵を、ジャンニが取り押さえる。打ち合わせたわけでもないのに、二人はあうんの呼吸で行動していた。





「よくも、こんな物を振り回して……」





 ジャンニが、フェリーニ侯爵から猟銃を取り上げる。だが次の瞬間、侯爵はジャンニの腹を激しく殴りつけた。傷に命中したらしく、一瞬ジャンニが怯む。





「ジャンニ!?」





 ナーディアもジャンニに注意を向けた隙に、フェリーニ侯爵は、するりと逃げ出した。真っ直ぐ向かう先は、ロベルトのベッドだ。





「ああっ、お父様!!」



「ロベルト様!」





 ナーディアとジャンニは、絶叫した。侯爵は、隠し持っていたらしき短剣を取り出したのだ。





「「止めろ!!」」





 二人が、侯爵を追いかける。だがロベルトは、枕元から剣を取った。





「不要。マクシミリアーノとの決着は、私がつける!」





 フェリーニ侯爵の短剣が、ロベルトの胸めがけて振り下ろされる。だが、ロベルトの剣が侯爵の首を斬り付ける方が早かった。ガクッと、侯爵が倒れ落ちる。



 



(急所に刺さったか……!?)





 侯爵の首からは、大量の血が流れ出している。三人は、しばらく呆然としていた。だがその時、侯爵は突如笑い出した。





「これで終わりと思うな、ロベルト!」





 その時、三人は気付いた。どこからか、煙の匂いがすることに。
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